1月27日の国会参議院代表質問において、岸田首相が「失言」答弁をした。
育児休業中のリスキリング支援を行う企業に対し、国が支援することを検討してはどうか――
という質問に対し、岸田首相は
「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」
と答弁。
これに対して
「育休は休みじゃない」
「そんなことしてる暇があるわけない」
「やっぱり子育てってものがわかってない。自民党はやっぱりオジサン集団」
などとの非難が殺到しているのだ。
この件について、私はやや岸田首相に同情的である。
なぜならこの質問をしているのは、同じ自民党の議員だからである。
その仲間が「リスキリングを支援する企業に、国が支援してはどうか」と提案しているのに、
「いえ、育児休業は休みではありません。
そんな暇はないと思います。
だから支援は検討しません」
なんて、面目を失わせる敵対的な答弁をするわけないではないか(笑)
ただ周知のとおり、国会での質問は事前に議員から通告があって、それに対して官僚が答弁案を書いているはずである。
それはもちろん、岸田首相も事前に見ているはずである。
だから、こんな質問が出てきたら
「これはまずいよ、この質問は引っ込めて別のにしてくれないか」
と頼む――命令する――ことはできたろう。
そういうことをするのがいいか悪いかは別として、できたはずなのにやらなかったのだ。
岸田首相も質問した自民党議員の方も、この質問と答弁がこんな批判を浴びるとは思っていなかっただろう。
おそらくは、「いいこと言った質問」とか「ホッと一息答弁」くらいに思っていたはずである。
それに確かに、
「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」
というのは、とても悪いこととは言えない。
というか、主体的に学び直しに取り組む国民を政府は支援しないなんて、言えるわけがないではないか?
そしてまた、現に「育休中のリスキリング支援に取り組んでいる企業」があるということについては、それらの企業も批判されるべき存在なのだろうか。
だが私が思うに、この質問と答弁は、一つの虎の尾を踏んでいる。
批判者たちが「育休中は休みじゃない」と言うのとは反対に、やはり育休は休みなのだ(と、多くの国民は思っている)。
そして、その休みである期間中にリスキリングという「勉強」をするというのは、「休み中にも仕事をする」ということに等しい。
この「休み中にも仕事をする・すべきだ」ということこそ、現代日本人の踏んではならない虎の尾なのである。
大部分の日本人の「学ばない」という決意は、巌(いわお)のように固い。
そして現代日本人にとって、「プライベートでも仕事することを求める」というのは、もはや明白な絶対悪である。
そんなこという奴は悪の権化なのである。
tairanaritoshi-2.hatenablog.com
国が「仕事しながら勉強する人を支援する」というのは良い。
いや、それでも「仕事しながら勉強してる暇なんてない」と批判する人はいるのだが、
そういう人には「どうせアンタは仕事してなくても勉強しないでしょ」と言うことができる。
ネット上でも、そういう意見が多くなるはずである。
しかし、「休み中に勉強する人を支援する」というのはまずい。
別に育休中でなくても、休みというプライベート時間にちょっとでも仕事のことを持ち込むのは悪である、という感覚は、もう日本人に深く染みついている。
それだから今回の質問と答弁は、モロにその虎の尾を踏んだ、と思うわけである。