今や全世界の渦中の男、圧政の独裁者であり「ヒトラーの再来」とも罵られる、ロシアのプーチン大統領……
彼は一般に、冷酷で切れ者の戦略家だと言われる。
だからこそ今回、「欧米列強の足元を見て(経済制裁も耐えられると見切って)」ウクライナ侵攻を命じたのだと言われる。
確かに「狂気の独裁者」とも言われるが、彼が本当に狂っていると思うからそう呼ぶのではなく、批判の定型詩としてそう呼んでいる人がほとんどのはずである。
プーチンが無能だとかバカだとか、そう思っている人はほぼいないはずだ。
さて私は、ロシア軍の実力というのを常々疑ってきた、というのは前の記事で書いた。
それと同時にまた、このプーチンの「頭のいい戦略家、大戦略家」だという世評にも、疑いを持っているのである。
まず彼の「恐ろしいほどの冷血な有能ぶり」イメージを形成している最大の要素は、「元KGB(旧ソ連の秘密警察)」出身だということだろう。
そこで出世して国の頂点にまで至ったのだから、有能でないわけがない――
しかしこの論法は、日本で言えば「財務省出身だから」「東大卒だから」国のトップとして有能だ、世界的な大戦略家だ、などと考えるのと同程度の話ではあるまいか。
私もプーチンが秘密警察で有能だったのは特に疑わないが、それだから大政治家・大戦略家の資質があるとは思わない。
日本の憲兵隊出身だからと言って、あなたは彼がそれだから大戦略家なのだろうと思うだろうか。
そしてまた、(直接付き合ったことはないので知らないが)たぶんプーチンが冷血で冷酷だというのは本当だとしよう。
しかし、冷血で冷酷だ、というのは性格であって能力ではない。
性格がそうだからと言って、その人間の持つ能力には何の関係もない。
関係があるように見えるのは、単なるイメージないし連想である。
世の中には、陽気で快活な大戦略家というのも当然にいるだろう。
我々があまりそういうのをイメージできないのは、まさにイメージと違うからか、想像力が足りないからである。
今回のウクライナ侵攻で、ロシア軍は予想外に苦戦していると言われている。
速戦即決の電撃戦のはずが、当てが外れたとも言われている。
ウクライナの抗戦能力(善戦敢闘)を読み違えたのか、
ロシア軍の士気が上がらず補給も貧弱だからか、
いずれにしてもそれは軍の能力不足、少なくとも他国へ遠征する能力の不足ということだ。
ロシア軍がそういう軍隊であるのは、必ずしもプーチンの責任ではない。
財政事情とか色んな要素や困難があって、他国へ侵攻し即時に勝利できる軍隊を作るのは、それは難しいだろう。
しかし、そういう軍隊だと知っていて(知らなかった、となると論外だが)侵攻を命じるのは、これは百%プーチンの責任としか言いようがない。
ソ連なんてドアを蹴破ればすぐに倒れる、せいぜい3ヶ月で征服できる、と誤断したヒトラーとまるきり同じ穴のムジナである。
いったいプーチンは、世評ほど切れ者で狡猾な大戦略家なのだろうか。
個人的な感想としては、彼の知性や戦略眼というのは、良くてスターリンと同程度といったところのような気がする。
いや、この戦争の成り行き次第では、ムッソリーニと同程度(同レベル)と判断されてもおかしくない気がする。
翻ってウクライナのゼレンスキー大統領だが、彼はコメディアン出身である。
日本で言うお笑い芸人である。
それが(アメリカの退避勧告を蹴ってまで)首都キエフに留まり、徹底抗戦を宣言している。
つい最近、タリバンが迫っているからと言って速やかに国外逃亡したアフガニスタンの大統領とは、エラい違いだ。
何だかこの戦争、ゼレンスキー大統領の「自撮り配信&SNS配信作戦」により、プーチン対ゼレンスキーの人格対決の様相も呈しているが……
ハッキリ言ってこの「元KGB VS 元お笑い芸人」の個人対決、現段階ではお笑い芸人の圧勝だと思うのは私だけだろうか。
いったいプーチンという人物、そんなに頭の切れる恐るべき戦略眼を持つ人物なのか。
どうも世界は、「おそロシア」というものをとにかく過大評価しなくてはならない、という強迫観念に駆られているような気もするのだが……