プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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「ミュンヘン静観」再び-西欧が東欧を見捨てる伝統について

 2月24日、ロシア軍は三方からウクライナに攻め入った。

 翌25日(これを書いている時点)には、もう首都キエフが陥落寸前である。

 アメリカはこうなる前から、ロシアは必ずウクライナに侵攻すると言っていた。

 そうなったらキエフは2日で陥落するとも予測していた。

 まさにその通りの展開になったわけだが――

 そのアメリカも西欧諸国もウクライナを助けるために派兵などせず、やる(と言っている)のは経済制裁ばかりである。

 その経済制裁というのも、どの程度のものか知れたものではない。

 何だかんだ言っても、強大な核戦力を持つロシアには(フセインイラクとは違って)戦争に踏み切れないということだ。

 ということはおそらく、ロシアほどではないにしても相当の核戦力を持つ中国が近隣諸国や台湾に侵攻しても、たぶんアメリカは(ましてやその他の国は)戦争に踏み切らないだろうと予測される。

 もし中国がベトナムに攻め込んでも、もう二度とアメリカ人はベトナムのために自国兵士の血が流れるのは嫌だろう。

 きっとアメリカ国民も許さない・ウンザリしているだろう。

 台湾だってそうで、それは中国の「自然の勢力圏」じゃないかとして併合を認めてもおかしくはない。

 日本すらその例外ではなく、「あれは中国の自然的勢力圏」と言いくるめるのは簡単である。

 (確かに、日本がアメリカの勢力圏であるというよりは「自然」ではあるが……)


 もちろんロシアが日本に攻め込んでも、その「落としどころ」は北海道(あるいは東北地方も)の割譲、ということになるはずである。

 北海道はもともとアイヌ民族の国だったからと言って、アイヌの末裔の日本人が喜んで独立を祝っている光景、なんてのは簡単に映像化してPRに使えそうではないか。


 さて、しかし……

 ウクライナが西欧諸国から見捨てられたのは、何もロシアが核兵器大国だから、という理由だけでもないような気がする。

 ぶっちゃけて言えば、東欧の国を見捨てるというのは、西欧諸国のお家芸であり慣習であり伝統の手法であり、もはや一つの歴史的パターンではないかと思うのである。

 ついでに言えば、意外にも西欧諸国は東欧諸国を助けるよりもむしろ、その向こうのロシアと「協力」することの方が多いのではなかろうか。

 今回のウクライナ戦争で、かの有名な「ミュンヘン会談」を思い出さなかった人は少ないだろう。

 むろんミュンヘン会談とは、誤れる宥和政策のぶっちぎりの代表例として悪名高い。

 ヒトラーの「これがヨーロッパにおける最後の領土要求」だとかいうセリフに対し、チェンバレン率いるイギリスなどはチェコスロバキアを見殺しにして(一時の)平和を購った。

(当時のイギリス人らは、おおむねそれを歓迎したようだ)


 今回のウクライナ戦争は、何とこれに似ていることだろう。

 プーチンのロシアは今回、ウクライナを「奪回」した。

 おそらく次は、そしてでき得れば最終的な目標は、旧ソ連の領土全ての奪還だろう。

 そしてそういう「ロシアの自然的勢力圏」の中ならば、西欧諸国は結局はこれを認めるのだろうと思わずにいられない。

 さすがにトルコにまで侵攻または勢力下に置こうとすれば、いよいよ話は別かもしれないが……

 しかしトルコもまた、NATOに加入しようとして長らく認められていなかった点でウクライナと共通するところがあるから、先のことは知れたものではない。


 そしてもっと日本にとって重要なのは、今回、中国はロシアの侵攻をまるで非難していない――

 それどころか「理解する」と言っていることである。

 さらには中国の在大阪大使館領事は、「今回のウクライナの教訓。それは、強い者に逆らうべきではない」などとツイートする始末。

 これでもう日本人は、中国とロシアはグルである・協力関係にあると、さすがに悟ったことだろう。

 世界が、特にアメリカがロシアに武力で対決しないのなら、中国に対してもたぶんそうだろう。

 いくら何でもアメリカは(ウクライナとは同盟を結んでないが)日本とは同盟を結んでいるので、さすがにそこまでではないと思いたいが……

 しかしいざとなったら、日本は中国の自然的勢力圏だから仕方ないとの言論は、簡単にアメリカで流通しそうではないか?

 日本人は今でも中国から伝わった漢字、そこから派生した文字を使っているのだとかいう風に――


 最後に、ウクライナはどうやったら救われただろうかと考えてみる。

 ウクライナは1994年、旧ソ連から受け継いだ核兵器を廃棄した。

 たとえ持っていても運用能力がなかったから、それしかなかったのだとも言われる。

 しかし運用能力があろうとなかろうと、やはり持つだけ持っておくべきだったのだろう。

 世界最貧国の北朝鮮でも可能なのだから、持っていれば今頃は十分運用できていたはずである。

 それにどうせ、本当に全然運用能力がないのかなんて、誰も確信できはしない。

 そうであればきっと、プーチンも侵攻しようとは思わなかったのではないか。


 もう一つは、ウクライナのような(二大勢力圏にモロに挟まれた)国こそ、永世中立国を宣言すべきだったのではないかという後知恵である。

 もちろんNATOには入れないが、結局はこの現実になってしまったのだから――

 それにしても、ウクライナほどの領土大国が武力侵攻で征服された、という現実は大きい。

 内戦や戦争ばかりのアフリカ、中米、中東でも、こんなことは第二次大戦以降はなかった。

 これは歴史的転換点、それも暗い意味での転換点になってしまった、ということになるに違いない。