7月16日、小売大手イオンは、実験店舗での取り組みで一定の成果を得たとして――
従業員の笑顔や声量を分析・評価してリアルタイムでフィードバックするAI端末「スマイルくん」を全店で導入することを検討する、と報じられた。
(⇒ ITmediaビジネスオンライン 2024年7月16日記事:「店員の笑顔を評価するAI」、イオンが全店で導入を検討 背景は?)
なぜこんなAIを導入するかというと、
●コロナ禍の影響で、従業員の挨拶の減少傾向が見られた
●よって、笑顔や挨拶のトレーニングをイチから実施する必要がある、と判断した
からだという。
実験店舗では、出勤時にこのAIで1日30秒のトレーニングが行われたらしい。
そして、気にならずにはいられない従業員自身の感想だが――
なんでも「気持ちが明るくなる」「ランクアップしていくのがうれしい」など、おおむね好評だったという。
しかしながら、このニュースを聞いた人の大半は、好評とはほど遠い感想を持ったと思われる。
それは一言で言うと、「笑顔のディストピア」という感想である。
ついにイオン従業員は笑顔のトレーニングをさせられ、それを評価・表彰されるまでに至った。
これが恐るべきディストピアでなくて何なのか。
近年は「感情労働」という言葉がずいぶん普及したが、とうとう感情労働はここまで来た。
自分なら、絶対にイオンで働きたくはない……
しかし天下のイオンがこんなことをするならば、他の企業も続々こんなことを導入するのではないか。
自分も、自分の息子も娘もいつか、こんなトレーニングと評価を受ける身になってしまうのか。
……と、そう思った人は何百万人もいることだろう。
ところで私はこんなニュースを聞いたとき、いつも反射的に思うことがある。
それは「他の国ではどうしているのか、他の国の小売店でもこういうのを導入する気配があるのか」という思いである。
私はおそらく、「従業員の笑顔の判定評価にAIを使う」というのは、日本独自の方法だと思う。
おそらく他の国から見れば、AIをこんなことに使うなんて「斜め上の発想」「目からウロコ」いや「異常な発想」と感じられるのではないかと思う。
しかし、それが本当なのか間違っているか、確かめるのはそんなに難しくなさそうだ。
なんとなれば、イオンは海外にも店舗展開しているからである。
中国と東南アジアにもイオンモールがあるからである。
上記引用記事には載っていなかったが、この笑顔判定評価AIを「全店」で導入検討するというその「全店」に、中国と東南アジアの店舗は含まれるのかどうか、ぜひ報じてほしいものだ。
もし海外の店舗は別だというなら、ぜひその理由を教えてほしいものだ。
そしてまた、実験店舗でのミステリーショッパー調査では「導入3か月で笑顔・挨拶率が1.6倍に向上した」とあるが、売上の方はどうだったのかも報じてほしい。
ただこれは書いていないだけで、実際に売上の向上もあったのかもしれない。
しかし、もし、そうだとしたら。
もし、少なくとも日本においては「従業員の笑顔・挨拶率と売上の向上に正の相関関係がある」のが真実だとすれば。
もし、それなのに中国と東南アジアの店舗においては従業員笑顔AIが導入されないのだとすれば。
そしてまた、私には欧米企業が欧米の自社店舗でこういうAIを導入するとは思えない――あなたにもたぶん思えないだろう――のだが、なぜ「愚かにも」欧米企業はそうしないのか。
私は正直、もし今回のニュースが海外で大きく報じられれば、「やっぱり日本人はキモい民族」と世界中で思われることを危惧する。
欧米人のみならず、中国人や東南アジア人・アラブ人・アフリカ人・ユダヤ人などは、こういう企業で自分が働くなどということに耐えられるのだろうか。
いや、そもそもそういうことを企業で実施しよう、こういうことにAIを使おうなどと発想するのだろうか。
彼らにとっては、それは人間の尊厳に関わることではないかとさえ思えてしまう。
そう、やっぱり日本と日本人は、世界の中で独創的なガラパゴス的進化を遂げる国なのではないか……