誰でも知っている、そして人気動物の一角を占めているペンギンが、最近の急激な気候変動(温暖化)により、それに適応できず絶滅の危機を迎えているという。
その理由は、ペンギンが鳥類の中で最も進化速度が遅い(適応性が劣る)からだという。
(⇒ ナショナルジオグラフィック 2022年7月22日記事:ペンギンは温暖化を乗り切れない? 進化速度が鳥で最も遅かった)
ペンギンはあまりに有名すぎるから、あんまりそうは思われていないが……
人間にとって、この世で最も意外性のある動物の一つだと思う。
なんたって、「空を飛ぶはずの鳥」が「海で生活」するのである。
それも哺乳類のカイギュウみたいなモッサリした泳ぎ方ではなく、「弾丸魚類」と言いたくなるほどすごいスピード(と、人間には見える)で泳ぐのだ。
むろん哺乳類には、クジラ類という完全水中生活者がいる。
そしてペンギンと同じレベル――出産や交尾は陸上でする――には、アシカ・オットセイ・セイウチ・アザラシ・ラッコ等々という多くの種類が存在する。
(これを「大部分水中生活者」と呼ぼう。)
こうして見ると、まずこの時点で不思議である。
哺乳類が大部分水中生活者の種族をこんなに多く生み出したのに対し、なぜ鳥類はペンギン1種だけなのか。
いや、正確には、大部分水中生活者の鳥類は4種いた。
①ペンギン類 恐竜絶滅後の6,200万年前~現在
②ペンギンモドキ類 3,700万年前~1,600万年前
③ルーカスウミガラス類 1,400万年前~100万年前
こうして見るとすぐ気づくが、どうも大部分水中生活者の鳥類というのは、新しく出現した種類ほど種の寿命が短くなっているようである。
そして今、最後に残った最も古いペンギン類も、絶滅の危機に瀕しているという。
私は昔、ペンギンはいずれクジラのような完全水中生活者になるだろうと思っていた。
哺乳類が完全水中生活者になれるのだから、鳥類もまたなれるだろうと思っていた。
だってペンギンはここまで完璧に――と私は思った――海の中を泳ぐことに適応できたのだから、あと何万年か何百万年もすれば、完全水中生活に移行するのは可能どころか必然だろうと思っていたのだ。
しかし振り返って考えてみると……
じゃあアシカ・オットセイ・セイウチ・アザラシ・ラッコ等々は、全て完全水中生活者への中間段階にあるのだろうか。
そうではなく、彼らは今の状態が進化の到達点にあるのではないか。
現にカイギュウやマナティは完全水中生活者であるが、クジラのごとく魚のように泳ぐのとは全然違う方向に進んだ。
だとすると、ペンギンはクジラ化する中間段階にある、と考えるのは早計なわけだ。
ペンギンの進化の極点は、まさに今ある状態であり――
言い方を変えると、ひょっとしたらそれが海における鳥の進化の限界なのかもしれない。
ペンギンの進化速度が鳥の中で最も遅いというのは、それを示唆していると言えまいか。
そしてさらに不吉なのは、「大部分水中生活者である鳥類の唯一の生き残り」であるペンギン類は、既にその4分の3が絶滅済みだということだ。
これはますます「鳥類の水中生活」というライフスタイル自体が、とっくの昔から衰退過程にあったことを強く示唆している。
ペンギンの生き方や生態というのは、我々が思うほど「有利」なものではないのではなかろうか。
なんだかこれは、哺乳類の奇蹄類と偶蹄類のうち、なぜだか奇蹄類は衰退の一途をたどり、偶蹄類は大繁栄しているという謎の事実を思い起こさせるものだ。
tairanaritoshi-2.hatenablog.com
そしてもう一つ、疑問に思うことがある――
今回引用の記事には、「鳥の中ではキツツキの進化速度が最も早い。理由は謎」とも書いてある。
キツツキが急速に進化すると言っても、じゃあその急速進化したキツツキはどうなっているのだろうか。
それはやっぱり、昔のキツツキと同じ暮らしを――木をつついて虫を引き出して食べる――しているのではないか。
だとしたら、キツツキの進化とは何なのか。
それともいずれ、キツツキは木をつつかなくなり普通の鳥になるのだろうか。
そうだとするとやはり進化の鉄則というか教訓というのは、
「特殊化したら絶滅する。進化の成功とは普通化することである」
ということになるのだろうか……