史上最大の飛行生物として有名な「ケツァルコアトルス」は、男子のロマンを掻き立てる点においてティラノサウルスに匹敵する魅力がある。
あれほど巨大な生物が空を飛ぶという勇姿は、間違いなく恐竜時代のハイライトの一つである。
ところかそのケツァルコアトルスは、実は「少しばかりは飛べたが、しかしたいていは地上で暮らしていた」とする新説が発表された。
(⇒ 朝日新聞 2022年5月16日記事:ケツァルコアトルスは飛ぶのが苦手? 史上最大の翼竜に新説発表)
しかしこれは、必ずしも新説とは言えない。
なぜなら「(大型の)翼竜は、実は飛べなかった」のではないかという説は、ずっと昔から言われ続けてきたからである。
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我々がケツァルコアトルスの大きさ(翼長10メートル、立った高さ6メートルでキリン大)、そして復元図を見るとき、誰でも思うことがある。
こんなシルエットで本当に飛べるのか、特に頭はデカすぎるんじゃないか、首もアンバランスに長すぎないか、ということをである。
別に航空力学を学んでいなくても、これは誰でも直感的にそう感じるだろう。
だが一方で、こんなシルエットでありながら――つまり、立派な翼があるというのに――飛べないなんて、絶対的におかしいんじゃないかとも思うはずである。
さてここで、それこそ絶対的に確かなことがある。
翼竜は、約2億年前の三畳紀後期から7000万年前の白亜紀末期まで存続した。
これほど長く存続していたなら、「飛べない翼竜」すなわち「以前は飛んでいたが、それを止めて地上性に移行した翼竜」というのは、必ず何種類もいたに違いないのだ。
周知のとおり鳥類は、割と簡単に飛ぶのを止めて地上性に移行する。
特に有名な巨鳥モアは、つい最近までニュージーランドに生き残っていた。
そしてもし人類が絶滅すれば、また地球には飛べない巨鳥が発生・繁栄するのは疑いないと私は思う。
だったら翼竜もまた、いくつもの「飛べない巨鳥」を生み出してきたはずである。
にも関わらず、今までそういう飛べない翼竜の化石が発見されたとは聞かない。
だがひょっとしたら、ケツァルコアトルスこそがその化石なのかもしれない。
それはまさしく移行型であり、その翼は普段は畳まれて使われておらず――
もしケツァルコアトルスがもっと長く存続していれば、翼は痕跡的となって(あるいは広げて性的アピールをする道具として残って)四本足で地上を闊歩する「地上性翼竜」に進化していたのかもしれない。
つまりケツァルコアトルスの化石とは、「後ろ足を失う前のクジラの化石」が見つかったようなものなのだろうか。
あるいはまた、逆方向ではあるが、「腕が翼になりかけのコウモリの化石」が見つかったようなものなのだろうか。
だとするとそれは、ものすごく希少な例だと言わざるを得ない。
「腕が翼になりかけのコウモリの化石」なんてのは、もしかしたら永久に見つからないほど希少かもしれないからである。
(実際、本当にそんなのが存在したのかすら想像しがたい。)
こんなのが飛べるとは思えない、しかし飛べないとも思えない……
二つの完全に相反する印象を持たせる巨大翼竜とは、いろんな意味でロマンを帯びた存在である。