プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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巡洋艦モスクワ撃沈の海戦史的意味-「艦船は陸上砲台に勝てず」の再来

 4月14日、ロシア黒海艦隊の旗艦である巡洋艦『モスクワ』が沈没した。

 ウクライナ軍のネプチューン対艦ミサイル2発の命中を受け――無人攻撃機の攪乱?援護があったとも言われる――、大打撃を受けて後退・曳航中に力尽きたらしい。

 『モスクワ』は1983年就役なので、艦齢40年近くの老齢艦である。

 しかしその排水量は約12,500トン、全長は186メートル程度。

 これは世界から「戦艦」という艦種のなくなった現代において、空母を除けば最大級の艦と言える。

 それが撃沈され、しかもその名が「モスクワ」だというのは、今回のウクライナ戦争でロシアがまたまた被った大打撃・大失態の中でも記念碑的なものだろう。


 さて、対艦ミサイルで大国の軍艦が撃沈されたと言えば、何より真っ先に思い出すのはフォークランド紛争(1982年)で――

 このときアルゼンチン軍はシュペルエタンダール攻撃機から発射したフランス製対艦ミサイル「エグゾセ」1発により、イギリス海軍駆逐艦『シェフィールド』(排水量4,820トン、全長125メートル)の撃沈に成功した。

 これでエグゾセミサイルは一躍有名となり、今でもミサイル兵器の中で抜群の知名度を誇っている。

 しかしこれは、航空機による対艦攻撃という点では、第二次世界大戦の延長上にあったとも言える。

 それに対して今回のミサイルは、陸上から発射されたという相違がある。

 つまり、たとえ海軍も空軍もショボい質量しか備えられない小国だとしても、陸上配備の長射程のミサイルさえ持てば、大国の大艦を撃沈できるという実証がなされたわけだ。

 これは、

「軍艦は陸上砲台には勝てない。だからそういう撃ち合いをしてはならない」

という、帆船時代から第一次世界大戦までの海軍の「常識」「鉄則」の復活なのではなかろうか。

 
 我々日本人にとっては、第二次世界大戦での米軍の艦砲射撃の威力が非常に強く印象に残っており――

 むしろ「艦砲射撃されたらもう勝てない」という方がスタンダードな考え方になっているかもしれない。

 しかし長射程の陸上発射式対艦ミサイルの普及により、この法則は再び逆転を遂げることになりそうだ。

 もちろん現代の艦砲射撃は砲でなくミサイルで行われるが、どちらのミサイルも同程度の射程である場合、撃ち合って勝つのはやはり(すぐ移動でき、掩蔽も容易で壕にもすぐ退避できそうな)陸上発射式ミサイルではなかろうか。

 そうなるとやはり軍艦からのミサイル攻撃よりは、空母によって航空機を発進させ、その航空機にミサイルを発射させるべきだろう。

 つまりやはり海軍は、空母を持っていないと陸上攻撃の面でさえ非常に不利ということになる。

 空母のない艦隊は(すなわち第一次大戦以前と基本的に同レベルの艦隊は)、陸上ミサイル砲台には勝てない――

 この海戦における陸上優位の復古は、各大国(日本も含む)を、たとえ小なりと言えども空母戦力の保有・拡充に向かわせるのではないかと思う。

 そして一方、陸上発射式対艦ミサイルの需要は、世界中で急増するのではないかとも思う。