これは驚くべきニュースである――
なんでもロシアは、ウクライナ侵攻(2022年2月)よりずっと前の2021年の夏に、日本を攻撃する準備を進めていたという。
それはロシア連邦保安庁(FSB)の内部告発者からのメール情報を、ニューズウィーク誌が入手した特ダネだ。
(⇒ 2022年11月25日記事:ロシアはウクライナでなく日本攻撃を準備していた...FSB内通者のメールを本誌が入手)
しかしこの記事を読んでも、「ロシアの指導者が狂ったように戦争を望んだから」という以外には、なぜ特に日本にターゲットを絞ったのかは定かではない。
この記事を読む限り、ロシアは(プーチン大統領は)とにかくどこが相手でもいいから戦争を仕掛けたかったというように見える。
いくら何でもこれは、プーチンを狂人視し過ぎのような気もするが――
しかし結果的には、むしろ当初シナリオ通り日本を攻撃していた方がはるかに成果が上がったのではないかと思える。
ウクライナでのロシア軍の無様ぶりを聞くにつけ、日本相手ならもっと戦争相手は腰砕けだったことが期待できるからだ。
だが、私がこの記事を読んで(いつもながら)ガッカリするのは――
ロシアが行ったとされる対日戦準備のプロパガンダというのが、相も変わらず百年一日のごとく、
「第二次世界大戦での日本軍の悪行暴き」
だということである。
本当に、ロシアにせよ他のどこかの国々にせよ、これしかネタがないのだろうか。
それとも能がないのだろうか……
なんでもFSBは2021年8月、「第二次大戦中に日本の特殊部隊がソビエト連邦の国民に拷問を与えたとする文書や写真などの機密を解除した」。
そして「日本が細菌兵器開発のためにソ連軍の捕虜を使って残酷な実験を行ったり、捕虜を非人道的に扱ったりした」ことを大きく報じた。
これで「ロシア社会で反日情報キャンペーンを開始するのがFSBの目的」だったらしい。
内部告発者によると、
「彼ら(FSB)は、日本は残忍な生物化学の実験を行い、残酷で、ナチズムへと向かう性向があると主張することに賭けようとした。
日本は、第二次大戦後に非武装化されるべきだったが、そうした『規制』に違反しており、ロシアを危険にさらしている、と」
私は、旧日本軍が細菌兵器の実験で敵国捕虜を(ロシア人はどうか知らないが)実験台にしたとか、
アジア各地で残虐行為をしたとか、
そういうことを別に否定しようとは思わない。
そういうことはいかにもありそうなことだし、実際に間違いなくあったとされている事件もある。
しかし断固として否定するのは――あるいはナチュラルに全然ピンと来ないのは――、そういうことが今を生きる私やあなたに関係がある、ということである。
いったい旧日本軍が残虐行為をしたからといって、それが私やあなたに何の関係があるか。
大昔の赤の他人がやったことで、何で私やあなたが罪の意識を持つことがあるか。
もしロシアが日本の過去の悪行を言い立てるなら、もちろん日本はロシアやソ連の過去の悪行を言い立てることができる。
しかし私は、そんなことをしようとは思わない。
過去のロシア人やソ連人がやったことなんて、今を生きるロシア人には何の関係もないからである。赤の他人だからである。
(もちろん、過去の悪行を実際にやったロシア人が今も存命なら、そいつは例外だ。)
私にはこんなことは、明々白々なわかりきったことだと思える。
しかしどうも世界中の多くの人には、(私としては「アホか」と言いたいが)全然わからないことのようだ。
今から80年も前の日本がロシア人を細菌兵器の実験に使っていた、なんてことが今の日本を攻撃する口実になる――
これはもう、どうしようもない血縁主義・民族主義と言うべきである。
たかが先祖が(先祖の一部が)そういうことをしていたからと言って、それとは何の関係もない子孫が罪を償わなければならない、それが正当化されるという考えを、他にどう呼ぶべきだろうか。
たぶんロシアが現代モンゴルを攻撃する際は、例の「タタールの軛」と呼ばれるモンゴル人のロシア征服の故事を引き合いに出すのだろう。
その果てしないアホらしさ、バカバカしさ――
そんなのをほじり出すためにFSBの職員が歴史文書を探し出してくるなんて光景は、むしろ哀れさを感じさせる。
まさにそれは、「クソどうでもいい仕事」と呼ばれるに値する。
いいかげんバカになりたくなければ、「歴史ネタはもうやめよ」と肝に銘じるべきではないか。