東京美容外科と言えば、美容整形に全く縁も興味もない人でも(テレビコマーシャルを頻繁にやっているので)誰でも聞き覚えのある、美容業界の超有名な雄である。
そこに所属する女性外科医が、解剖研修のためグアムへ行ったのだが――
「いざ Fresh cadaver(新鮮なご遺体)解剖しに行きます!」
「頭部がたくさんあるよ」
などと現場写真付きでSNSに投稿、案の定たちまち炎上して統括院長が謝罪(しかし女性外科医を解雇はしない)、それがまた批判を呼ぶという事態になった。
(⇒ 日刊スポーツ 2024年12月24日記事:麻生泰氏、献体写真公開の女性外科医解雇せず「動機は善」投稿しXまた炎上「倫理学んで」の声)
さて、私は思うし、皆さんもたぶんそうだと思うが――
私はこの女性美容外科医が「はしゃぎSNS投稿」をすることはともかくとして、
現場にいるときSNS投稿したようなことをやっていること・言っていること・思っていることについては、特に今さら嘆かわしいとは思わない。
なぜなら解剖実習の際、笑顔を見せたり不謹慎なジョークを飛ばしたりとかいうことは、別にこの人じゃなくても普通にやられていることだろうからだ。
解剖実習が終わったら終わったで「お疲れー!」と打ち上げを開催して大騒ぎ・大笑いしたり、連れだってゴルフへ打ち興じたりとかは、全然普通に行われているだろうからだ。
そしてまた「売れっ子」医師ともなれば、とりわけ売れっ子外科医ともなれば、いちいち遺体を見たり切ったりするたびに敬意を表したり感じたりするなんてこと、なかなかできないのではないだろうか。
実際の遺体で解剖実習できるとなると、思わずワクワクする・気分が高まるというのは、外科医に向いている人ほどありそうな話である。
また、昔の刑事もののドラマとか小説では、被害者の死体のすぐ脇で
「このガイシャは」
「このホトケさんは」
「この先生は」
とか言っている刑事や検視官がよく見られたものだ。
ああいうのはやはり、現代では不謹慎と見られるだろう。
そんなことを聞こうものなら、先輩刑事や同僚に「てめえ、何ドラマみたいな口をきいてんだ」とどやしつけられるか冷たく睨まれるだろう。
それにも関わらず今でも、被害者の死体の脇では何らかの不謹慎なやり取りが交わされているだろうと思う。
そういうことが知られないのは、ひとえに「SNSで自らそんなこと公開する人」が極少数だからに違いない。
別に医者でなくたって、救急車で運ばれる人を見る人たちの中には、必ずや同行者にニヤニヤ笑いを見せる人がいるはずである。
何か面白いこと言う人がいるものである。
ただ、だからといってその人たちがとんでもない極悪人とか人でなしというわけでもない。
これはもう、人類の多くに刻まれた反射反応とも言うべきものかもしれないのだ。
そう思うと、「知らぬが仏」というのは永遠の心理なのかもしれないと思う。
解剖実習をする医師らが「遺体に敬意を払い、厳粛な気持ちでいる」なんてことは何の保証も根拠もないのだが――
我々は何となくそれが「守られているはず」と思い、実際は遺体をネタに不謹慎ジョークで笑い合っているとかピースサインで記念写真を撮っているとか、なかなか思うことができない。
そんなことする人たちは実在するに決まっているのだが、SNSなどで現実に見せられるまではなぜか「幻想」を抱きがちなのだ。
たまたま今回はこの女性外科医が、SNSで自爆したのだが――
これはまさに氷山の一角で、「SNSにアップしてないだけ」の似たような人たちはゴマンといるに決まっている。
それが人間というものである……と、おそらく我々は達観して生きるべきなのだろう。