千葉県野田市で小学4年生の娘を虐待死させた父親について、母親の方の供述による虐待過程を書いた記事が報じられている。
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一読して思うのは、この父親が「陰険な狂人」と呼ぶにふさわしい人物であることだろう。
たぶんこんな人間が、大昔はローマ皇帝なんかに即位して暴虐をほしいままにしていたのである。
だが、今回の記事の主眼は、この父親が人非人だなどと書き連ねることではない。
主眼は、上記引用の新聞記事の一節――すなわち、
「被告は心愛さんをリビングに連れてきて、うつぶせにしてプロレス技をかけた。」
という部分についてである。
思うに、一般の新聞記事やネット記事で「プロレス」という言葉が使われる場合の「二大あるある」は、
①「出来レース」「なれあい」「裏に筋書きあり」という意味
②虐待やイジメの状況を報道する際、被害者がされた行為を指す
の2つだろう。
イジメや虐待の態様の一つとして、必ずと言っていいほど「プロレス技」という単語が使われるのを、あなたもきっと何度も見たことがあるはずだ。
私が疑問に思うのは、ここである。
このプロレス技というのは、具体的に何の技を指しているのか?
それがジャーマンスープレックスやラリアット、ムーンサルトプレスでないのは、明らかに想像できる。
おそらくそれは、「密着してかける技」のどれかを指しているのだろう。
たとえば、卍固めとかである。
だがそれを言うならば、実際は「柔道技」だったり「アマレス技」「総合格闘技ワザ」だったりすることもあるはずだ。
しかし決してそうは書かれず、どうやら一般マスコミ業界にとって「密着技」は全て「プロレス技」のようである。
これはプロレス界にとって、喜ばしいこととも迷惑なこととも言える。
なぜなら、プロレスが地上波テレビからほとんど消えてこれだけ経ってもなお、日本人にとって密着技と言えばプロレス技だという認識があるということになるからだ。
そういえば我々は、「プロレスごっこ」とはいまだに言っても、「ボクシングごっこ」「柔道ごっこ」などとは決して言わないし聞くこともない。
たぶん日本の一般人にとって、「相撲ごっこ」は「ごっこ」ではなく、「相撲」そのものなのだろう。
そう考えると、プロレスはプロスポーツの中で「ごっこ」が「ごっこ」として成立する唯一のものである。
(あるいは、だからこそスポーツじゃないという論拠の一つにもなるのかもしれないが……)
プロレスの世間での認知度は、いまだに世間の中で高いのである。
そして迷惑な面と言えば、もちろんそれが「悪いこと」の文脈で使われることだ。
私には柔道技やボクシング技(要するに「殴る」ということ)を使ったイジメや虐待も、ゴマンとあると思えるのだが――
しかしどうやら、イジメや虐待など「悪いこと」で使われる技は、一般マスコミでは全て「プロレス技」と表記される慣習があるようである。
いや、慣習と言うより、もしかして――
日本の新聞記者には、先輩や上司から「こういうときはプロレス技と書くんだよ」という手ほどきや指導があるのではないか、とさえ思えてくる。
そうでなければ、「悪い行為のとき使うのはプロレス技」という脊髄反射神経ができあがっているのではないか、とも思えてくる。
マスコミをこそ公の場で質問攻めにし、返答に困らせてみたい――
という願望は多くの人が持っているだろうが、私としては、
「この『プロレス技』というのは、具体的に何の技なのでしょうか?
え、それは柔道技ではないでしょうか?
だったらなぜ『柔道技』と書かないのですか?」
などと、一度は聞いてみたいものである。