「カニの定義の見直しを迫るような」9000万年前のカニが発見された、とのニュースが入ってきた。
9000万年前と言えば白亜紀後期の恐竜時代で――
首長竜や大型アンモナイトなどと同時代に、こんなカニが海中を「泳いで」いたというのは、まさしくロマンである。
しかし真っ先に感じたのは、この記事のタイトルの秀逸さである。
「カニ界に激震」なんてフレーズ、クリックせずに済ませられる人はほとんどいないのではなかろうか。
これは個人的に、2019年のトップランクの「タイトル記事大賞」である。
それはともかくこのカニ、ハサミはあるのに海を遊泳していたという。
甲羅はあっても横幅の方が広いのではなく(これが今のカニの常識なのだが)、体は縦に長かったという。
(この点だけでも、海底の底の砂地を住みかにするのではなく遊泳生活していたことがわかる。)
また、カニの特徴である「眼柄」もなく、まるでアニメ目のような大きな眼球が直接頭部に付いていたようだ。
誰でもそう思うはずだが、眼柄なんてのは地面に潜り込む生活をしているから発達するものだ。
これもこの新種ガニが遊泳生活をしていた証拠なのだろう。
もっとも出目金のように突き出た大きな球体の目は、流体力学的には不利なはずだが……
たぶんこのカニにとっては、高速で巧みな遊泳よりも、周りを360°見張れる方が利益があったのである。
(それか、夜行性であったかだ。)
記事中の科学者は「まるで空飛ぶイルカです」と言っているが――
その復元図を見ると、「まるで海中の昆虫です」と言った方が万人にしっくりくると思われる。
本当にこれ、真っ先に「ゲンゴロウにソックリだ」と感じるのである。
思えば昆虫という種、これだけ地球上で大繁栄を遂げたにもかかわらず、今に至るまでついに海中生活する種を生み出していない。
まるで今回の「9000万年前ガニ」は、その代役として現れたかのようだ。
もし昆虫が海中生活に適応していれば、少なくともその初期にはこんなカニに酷似していたのではないかと思われる。
発見されたばかりでその生態を推理するのは無謀だが、
何となく想像では、このカニは死骸なりその他の有機物を求めて、スローなジャンプのごとく遊泳してエサからエサへ飛び回っていたように思える。
ハサミがしっかりある以上、その食性は現代のカニと大して変わらず……
いくら何でも、泳いでいる最中に他の魚を捕まえて食べることなどできなかったろう。
それにしても、こういう新生物が発見されていつも疑問に思うのは、なぜ現代にはそんなカニがいないのだろうということだ。
海中を泳いでエサを探す、縦長で目の大きいカニというのは、現代の海に生きていてもさして不思議ではないはずなのに……
もし何らかの原因でそういうカニは現代の海に生きていけないというのなら、白亜紀の海にはどうして生きていけたのだろう。
そもそもどうして生じることができたのだろう。
このカニが、絶滅を免れないほど欠陥のあった生物だとは、さほど思えないのだが……