プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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しまむら「パパ下げ」Tシャツ発売中止、エルフ赤面失禁販促POP撤去-企業で働くというリスク

 7月29日、衣料大手しまむらのベビー・子ども用品専門店「バースデイ」は、「パパはいつも寝てる」「パパは全然面倒みてくれない」「ママがいい」「パパはいつも帰り遅い」などという文字がプリントされたTシャツ・ヘアバンド・靴下などを発売した。

 しかしこれが「世のパパたちをバカにしている」「パパは仕事、の固定観念を助長している」などと批判され、7月30日、しまむらはこれら商品の発売を中止すると発表した。

(⇒ ハフポスト 2024年7月30日記事:「パパは面倒みてくれない」子ども服のデザインに物議、「しまむら」が商品の販売中止を発表)


 誰でも思うし私も思うが、これは確かに「初めからこうなるのは予想できたろう」という種類の話である。

 もちろんしまむらの内部でも、予想していた人は何人もいるはずだ。

 それなのに事前に発売中止やデザイン変更できない理由については、以前の記事でも書いている。

 今回の場合は「現代美術作家」のデザインらしいが、おそらくはしまむら側から依頼した以上、その作家から出てきたデザインを「こりゃまずいですよ」と否定するのは巨大な勇気がいるのだろう。

 これはたぶん、あなたや私がしまむらの社員でも――役員であってすら――同じことである。

(⇒ 2024年6月13日記事:Mrs.GREEN APPLE『コロンブス』MV、米先住民差別として大炎上…を未然防止できない真の理由)


 しかしもう一つ今回の件で思うのは、いまだ「ママ(女)を下げることは当然に許されないと世論が一致しているが、パパ(男)を下げるのは構わないし面白いという世論がある」ということである。

 この「風潮」がなかなか消えてなくならないのはなぜなのか、実に興味深いではないか。

 また「パパはいつも寝てる、帰りが遅い、全然面倒見てくれない」というのは、即ちパパが仕事に行って疲れているからに他ならないと思うのだが……

 それでこんな風に皮肉をTシャツに書かれてディスられるのなら、それが商業化さえされるのなら、やっぱメンドクサイから子どもはいらないし結婚もしたくないと世の男性が考えるのは、至極自然なことではあるまいか。

 それはともかく、しまむらほどの名の通った大企業で働く人さえ、こんな炎上必至のTシャツを自社が発売決定することを止められない――

 というのは、日本人の労働環境についてなかなか示唆に富む事実である。

 「すまじきものは宮仕え」と昔から言われてきたものだが、その「するべきでない宮仕え(企業勤務)」をしなければ食っていけないのが、現代日本人の大部分なのだ。


 と、一方では、出版大手KADOKAWAの月刊漫画誌コミックキューン』で連載中の「エルフ先生のトイレはどこですか?」単行本第1巻の発売(7月26日)に当たり、全国の書店に配られた店頭販促掲示物(POP)が――
 
 「こんなもんゾーニングもせずに本屋に置くな、子どもを連れていけない」などとの批判を受け、撤去する手配が進められていると発表された。

 そのPOPとは、主人公であるエルフ女教師(草花が咲く森でしか排尿できないという設定)が描かれており――

 彼女がトイレの前で尿意をこらえるイラストの一部を引っ張ると、「赤面しながら股を広げて失禁し、水しぶきのイラストが手前に飛び出す」仕掛けになっているらしい(笑)

 私はコミックキューンって月刊誌の名を初めて聞いたのだが、どうやら(一応は?)エロマンガ雑誌ではないようだ。

(⇒ J-CASTニュース 2024年7月30日記事:エルフ赤面で失禁、KADOKAWAマンガ販促POPに批判→編集部謝罪 「書店での掲示には適さない内容」で撤去へ)


 私はまず、こんな設定で読み切りではなく連載もののストーリーを書ける(絞り出せる)作者の力量は、並々ならぬものだという感想を持つ。

 これは私などには、たぶんあなたにも、到底できない芸当である。

 しかしそれはともかく、もう一つ抱く感想は――

 もしKADOKAWAに入社してコミックキューン編集部に配属されたなら、こんなPOPを発案・企画・製作するのに携わらなくちゃいけないのかという感想である(笑)

 こういうPOPを作るのって、エロ漫画雑誌やエロマニア専門誌の編集部でさえ、なかなか経験しないことではなかろうか……

 さすがにコミックキューンの編集部は男性ばかりなのだろうが(?)、もしこんなところに女性が配属されたらどうするのだろうか。

 もっとも、もしかしたらコミックキューン編集部というのは、KADOKAWA内部でエロ漫画雑誌部局という位置づけをされている――だから女性は配属されないことになっている――のかもしれないが……

 そしてさらにもう一つ思うのは、仕掛け絵本式のPOPなのだから当然ながら、「こういうPOPを書店でヒョコヒョコ動かす」客がいる、と想定されていることについてだ。

 私にはこれは、世紀末的というか悪夢的な光景だと思うのだが、皆さんはどう思われるだろうか。

 しかしあなたがKADOKAWAコミックキューン編集部に配属されたなら、まさにそういう想定をして企画制作しなければならなかったのである。

 ただ「普通の」いや「名の通った」会社で働くことにすら、このようなリスクがあるのだから、まこと宮仕えはリスキーなものである……