プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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Mrs.GREEN APPLE『コロンブス』MV、米先住民差別として大炎上…を未然防止できない真の理由

 私はこの人たちのことを全然知らないのであるが(笑)、Mrs.GREEN APPLEという音楽グループの新曲かつコカ・コーラのキャンペーンソングでもある『コロンブス』のミュージックビデオが、彼らのYouTubeチャンネルで公開されるや否や大炎上した。

 このMVには、コロンブス・ナポレオン・ベートーヴェンという偉人に扮したメンバー3名が「500万年前」の世界の類人猿とホームパーティーをするシーンがあるのだが……

 その類人猿に人力車を引かせるとかピアノを教えるとか、それが「類人猿みたいなアメリカ先住民を教え導く」ことを思わせ、あからさまに差別的だというのである。

(⇒ smart FLASH 2024年6月13日記事:「地雷踏みまくってる」ミセス新曲『コロンブス』に「ど真ん中の差別」と大非難…先住民を想起させる “類人猿” に人力車引かせる)


 さあ、またまた発生した「問題広告」案件である。

 この「問題広告」案件というのは、昨今の話題ニュースの少なくない割合を占めている。

(⇒ 2024年5月28日記事:「蒲タコハイ駅」へNPO抗議-駅広告はリスク、ネット広告は楽園)


 しかも今回の案件は、天下の世界的大企業コカ・コーラのキャンペーンソングである。

 またも、これほどの超巨大企業でありながら、これほどの「やらかし」をしてしまったのだ。

 このMVの企画制作には錚々たる大企業や一流クリエイター企業が関わり、もちろん熟練?のコンプライアンス担当のスクリーニングがあったはずなのに、である。

 ではいったい、どうしてそれでありながら、こんな炎上が起こることを未然に防止できないのだろうか。

 まず本件について思うのは、「コロンブス」を登場させたのが不運だったということである、

 もしコロンブスでなく他の偉人でありさえすれば、類人猿がアメリカ先住民を連想させるなんて連想は起こらなかったかもしれない。

 むろん曲名自体が『コロンブス』なのだからコロンブスを出さないわけにはいかない、とも言えるのだが――

 それならいっそ、そもそも曲名にコロンブスなんて付けるべきではなかったのである。

 実際、私はこの曲を聴いてはいないが、別に曲名がコロンブスだろうとライト兄弟だろうと、たいした違いはないのではなかろうか(笑)

 いまやコロンブスが「侵略者」だというのは、世界的に常識的な見方である。

 少なくとも単純な大航海者だとか偉大なる発見者だとか、そんな賞賛すべきヒーローと見なされていないことは常識である。

 コロンブスアメリカ「発見」と「言ってはいけない」ことは、この日本でも非常によく知られたことではないか?

 そしてまた、ナポレオンというのも曲者である。

 これこそ「戦争屋」「侵略者」の歴史的筆頭みたいなものであって、そう考えると今回の3人の中でMVに起用していいのはベートーヴェンだけだったろう。

 そう、まるで日本のお札の肖像画に起用される人のように――

 もし現代の広告に歴史的人物を起用しようというなら、その全員を文化系(できれば近代より前)にしておくのが無難というものだ。

 
 あるいはもしかしたら、「コロンブス」の起用に心ひそかに眉をひそめた人は、このMVを見たコンプライアンス担当の中にいたかもしれない。

 それでもスルーしてしまったのは、たぶん「500万年前」という時代設定のせいである。

 この設定であれば類人猿を登場させても人力車を引かせてもピアノを教えても、まさか視聴者からアメリカ先住民を連想する者は出ないだろう……

 そう思ってしまうのも、それはそれでわかるのだ。


 さてしかし、以上述べてきたことは「こういう炎上案件を、名だたる大企業が世に出すことを許してしまう」主要な理由なのではない。

 その最も大きな理由は、あなたも決して高みの見物をしていられるような理由ではない。

 もしあなたがこのMVを公開前にチェック役として見て、慧眼にも「これはアメリカ先住民への差別を連想させるかも」と気づいたとしよう。

 では、あなたは関係者に向かってそう言うだろうか。

 Mrs.GREEN APPLEに向かって、このMVを作った人たちに向かって、そんなこと本当に言うものだろうか。

 それは非常に大きな、ほとんど人間離れした勇気を要すると言っても過言ではないのではないか。

 Mrs.GREEN APPLE自身やコカ・コーラの担当者やその他の関係者が集う会議の席上で――いやメール上でさえ――、あなたがそんな意見を言うと想像するのは、まさに血も凍るようなシチュエーションではないだろうか。

 その会議の場は、沈黙に凍り付くだろう。

 あなたは必ずや、「コイツなに言ってんだ」「ヘンなこと言うなこの野郎」と思われるだろう。

 あなたは間違いなく、「雰囲気を悪くする罪(ざい)」を犯した凶悪犯罪者みたいに思われるだろう。

 むろんあなたには、そんなことハッキリわかっている。

 だから、たとえ心に引っかかるものがあったとしても、決して言いはしないのである。言えないのである。

 おそらくこれは、日本人に限らず世界中の国の人々にある感覚なのだ。

 こういうことが言えるのは、強大な権力を持つ無慈悲な独裁者みたいな人だけである。

 そう思われるのを恐れない、常人離れした感性を持つ人だけである。

 ちょっと逆説的ではあるが、こういうCMなりMVが世に出るのを阻止できないのは、世の中に「優しい人」ばかりがいるせいだろう。

 はたしてあなたが今回のMVの関係者だったとして、本当にこれを世に出すことに異論を唱えることができたか……

 と問われれば、あなたもそんなに自信はないのではあるまいか。