プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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男性遺伝子あり女子ボクサーは五輪や女子スポーツ全般から排除すべきか

 パリ五輪ボクシング女子66キロ級2回戦において、アルジェリアのイマン・ヘリフなる選手がイタリアのアンジェラ・カリニ選手に46秒で勝利した。

 ところがこのヘリフ選手、昨年の性別適格性検査では(女子としての試合出場に)不合格となっていた。

 しかしパリ五輪の参加基準では不合格とならず、今回の出場・勝利となったのだ。

 そしてこのヘリフ選手、どうやら昨今大流行?の「男から女になった」トランスジェンダーというわけではなく――

 女子として生まれ女子として育てられたのだが「性分化疾患」を患っており、確かに女性でありながら男性の遺伝子を併せ持っているらしい。

 これについて世界中で「こんなのを純粋女性と戦わせるな」という声が上がっており、物議を醸している。


 さておそらく、世界中の人にアンケートを取れば、圧倒的多数が「こんな人を女子スポーツに入れるのは反対」になると思う。

 たぶん100人中99人くらいは、そんなのは純粋女性にとって不公平だと思うに決まっているのである。

 ただ私がまず疑問に思うのは、いったい男性遺伝子を持つ女子運動選手というのは、本当に運動能力で純粋女子運動選手よりはるかに優れているのか、ということだ。

 男性遺伝子といっても多種多様だと思うのだが、そのどれもがそんなにも運動能力やパワーに直結するものなのだろうか。

 それが証拠に、と言っていいのかどうかわからないが、イマン・ヘリフ選手も百戦百勝の無敗の経歴であるわけではないらしい。

 つまり、これまでの試合では純粋女子に負けることもあったのだ。


 次に、もし何であれ男性遺伝子を持つことが、女子選手にとって本当に圧倒的に有利なことだとしても――

 それを各人間の個々人の持つ運動能力やパワーのナチュラルな差、生まれついての資質といった、世間から「全肯定」されているものとどう区別すればよいのだろうか。

 当たり前のことだが、男同士・女同士の間でも運動能力やパワーの差は千差万別で、(大袈裟に言えば)天と地の差があることは明々白々だ。

 その天の方を我々は「天与の才能」とか「ギフテッド」とか「モンスター」とか、それこそまさにそのまんま「奇跡の遺伝子」みたいに呼び習わして称賛しているではないか。

 たまたまモンスターパワー・ミラクル才能の遺伝子を持って生まれてきたギフテッド選手は称賛絶賛するのに、その遺伝子が男性遺伝子であれば絶対否定するというのは、冷静に考えればなかなか難しいことだろう。

 
 しかし、以上のようなことを沈思してみても、やはり無駄である。

 ヘリフ選手の悲劇は、たとえ今回五輪で金メダルを勝ち得たとしても、母国アルジェリア以外からは決して認められも賞賛されることもないことにある。

 それは世界中の大多数の人間にとって、卑怯なる「天然ドーピング」のフェイクな栄冠にしか見えないだろうからだ。

 これが生まれながらの性分化疾患患者の彼女にとって、悲劇でなくて何だろうか。

 だが、それにしても……

 こんな物議を醸す女子選手が、よりによってアルジェリアというバリバリのイスラム国家から出てくるというのは、ものすごい皮肉ではないか。
 
 そう、彼女は欧米「先進」諸国の選手じゃないのである。

 これってアルジェリアのボクシング関係者にとっては、とにもかくにも金メダル獲得を狙えることがやっぱり最重要だということなのだろうか。

 しかしそうなると今後は、世界中で性分化疾患の女子をピックアップしてスポーツ女子選手に育て上げる、なんてことが大いに広まりそうである。

 これは、世界中の女子の性分化疾患者には、黄金時代の到来を意味するのかもしれないが――

 それもやはり、ギフテッド礼賛の現代社会においては、避けられぬ成り行きなのだろうか。