プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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尾道市「先輩パパから妊婦へ」チラシ炎上-いらんことはするなかれ

 「坂の街」、大林宣彦尾道三部作」で全国に知られる、広島県尾道市――

 その尾道市が妊娠届を受け付けた際に妊婦の方へ配布しているチラシが、妊婦に過度で時代錯誤的な努力を押し付けているとSNSで指摘され、炎上のうえ発行停止となった。

 なお、新米パパへ配布しているチラシも別にあるのだが、これも発行停止となった。

(⇒ J-CASTニュース 2023年7月24日記事:妊婦向けに「妻のこういう態度が嫌」 尾道市「先輩パパから」チラシに批判続出→配布中止「真摯に反省・謝罪」)


 まず思うのは、このチラシの発行は2018年には既に始まっていた(内容は変わっていない)ということについてである。

 これが2023年の今になって初めてSNSに晒され問題になったというのだから、今の尾道市健康推進課の人にとっては寝耳に水・青天の霹靂的な出来事だろう。

 「今になってなぜ」というのが、自然な反応ではないか。

 そして次に思うのが、今に至るまで5年もの間「おかしい」の声が上がらなかったというのは――

 尾道市の妊婦というのはこれをたいしておかしいと思わなかったか、思ってもわざわざ声を上げる人はいなかったか、みんな大人しかったか、もしくは「こんなのほとんど誰も読んじゃいない」状態だったか、のいずれかだろうということである。

 私はそもそも、いつも思うのだが……

 こういうチラシをいちいち妊婦やその夫らに渡すというのは、いらんサービスではなかろうか。

 こういうチラシを真面目に読む人というのは、本当にそんなにいるのだろうか。

 たいていの人が真面目に読むチラシと言えばスーパーなどの広告チラシだけで、この種のチラシは読まないで捨ててしまうのが普通ではないか。

 もしそれでも渡すとすれば、小児科病院のリストくらいで十分ではないかと思う。

 根本的に「なくてもいい」こんなチラシをわざわざ作って渡そうとするから、炎上案件が――言い換えると自作の地雷が――思いもよらぬタイミングで発生・爆発してしまうのである。


 さて、以上のことを前提に、このチラシの中身を見よう。
 
 まずいただけないと感じるのは、「先輩パパから妊婦へ」「先輩ママから新米パパへ」という形式である。

 私はこの「先輩●●から新米●●へ」という書き方を、全くいいものとは思わない。

 「経験者から」と書くなら、まだしもだが――「先輩」って、たかが同じことを先に経験したというだけである。

 人生の先輩なんて、たかが先に生まれただけのことである。

 「年上のバカ」なんて人生でいくらでも出会うだろうに、先輩というだけで「ありがたいメッセージ」を送られても困るのだ。


 次にこのチラシのハイライトとも言える、「新米パパが妻にしてもらってうれしかったこと」の3位に「マッサージ」が入っていることについて。

 これはなかなか異様で、こんなことを聞かれてマッサージという答えが出てくるなんて、ちょっと普通の人は想像しないだろう。

 しかしこのアンケートは母数が100人で大きいとは言えないが、それでもこれが3位なのはまさか捏造ではあるまい。(何人がこう答えたのかは不明だが……)

 つまりこれは真実であり、夫たちの意外な真実が垣間見えたと言ってよい。

 そして「妻のこういう態度(言葉)が嫌だった」という項目について、

 1位が「わけも分からずイライラしている。少しのことでイライラして当たられる」、

 2位が「赤ちゃんの世話で忙しく、家事ができていない」

 3位が「何もしてくれない。子供の面倒をみてくれない」

 というのもまた、新米パパの真実の声なのに違いない。

 私は、こういうアンケート結果が出たのを公費を使って世に知らしめるというのは、それなりに意味があることだと思う。

 真実を加工せずに世に出すことは、結構なことだと思う。

 これが世の――尾道市の100人の――パパさんの真実の声だというのは、妊婦さんも知っておいて損はないではないか。

(そして、「夫のこういう態度が嫌だった」という項目についても、妊婦たちの真実の声を夫らが知るのは意味がある。)


 最後に、このチラシには(炎上してもあまり言及されていないようだが)聞き捨てならないことが書いてある。

 「(相手の思いがわからないと感じる理由として)男女の脳の構造上の違いがあげられており、男性は理論、女性は感情に基づいて行動するという違いがあることがわかっています」

 という一文である。

 これは世間で非常によく言われていることであるが、しかし本当に「わかっている」事実なのだろうか。

 これは、いわゆる「俗説」というものではないか。

 男女に好みの違いがあることは明らかかもしれないが、しかし男性が理論に基づいて行動しているなんて、軽々に断言できるようなことではない。

 少なくとも、尾道市役所というただの一般行政機関が断言することではないだろうと思うのは、私だけだろうか。

 いかに内容が問題視されようと、アンケート結果をそのまま掲載するのは、それが真実なのであれば参考になるという利点がある。

 しかし、このような俗流科学理論(疑似科学)を真実だとして前提することは、人を誤らせるものである。

 私にはこの一文こそ、このチラシの最大の問題点だと思えるのだが……