南米にはサルがいる。旧大陸のサルが「狭鼻猿類」と呼ばれるのに対し、南米のサルは「広鼻猿類」と呼ばれる。
しかし北米に(原住)サルはおらず――
人類がそうだったとされるように、ベーリング陸橋を通って旧大陸から新大陸に移動してきた(又はその逆)とは考えられない。
そこでまず考えられたのは、もともとは同じ種類のサルだったのに旧大陸(アフリカ)と南米大陸が大陸移動で分離し、それで両者は隔離されて別々の進化の道を辿った、とする説である。
しかし近年これを凌ぐようになった有力説は、
「大陸分離は既に済んで、サルは旧大陸にしかいなかった。
だがその旧大陸から偶然、サルが南米大陸に漂着して南米にもサルが分布するようになった」
とする渡洋分布説である。
その証拠がまたも見つかった、という記事が先日報じられた。
(⇒ ナショナルジオグラフィック 2023年7月22日記事:太古のサルが大西洋を横断か、南米のサルの起源で新たな発見)
サルが生きて大西洋を渡りきって対岸の大陸に漂着する、なんて聞けば、誰もがそんなことはあり得ないと感じる。
(もっとも、それが起こったとされる約4000万年前~3000万年前の大西洋というのは、今の3分の1程度に狭かったらしいとしても――)
だがそれが「天然のイカダ」即ち「浮き島」だとすれば、確かにあり得る話になる。
浮き島と言っても、まるで「ひょっこりひょうたん島」のような大規模な浮き島である。
そこには木が生えてさえいて、それには果実というサルの食糧も付いていることもあるだろう。
なるほど、そんな巨大な島が――巨大だからこそ――大西洋の荒波を乗り越えてバラバラにもならず南米に辿り着くなんて、まだあり得ないことだとは思う。
そして実際、アフリカ西岸のどこかの河口部?から流れ出た浮き島の99.XXXXパーセントは、途中で土が脱落してバラバラになり、その上にいたサルもろとも大西洋の藻屑となったに違いない。
だが、サルを乗せた浮き島の発生が年に5回程度起こり、それが何万年・何十万年・何百万年も繰り返されたとしたら……
そのうち1回か2回は、複数のサルを乗せた浮き島が南米に辿り着くような「奇跡」もあっただろう。
そして現に、サルのアフリカから南米への漂着分布はまさに「2回」起こったらしいのだ。
ハッキリ言うと私は、こういう説が大好きである。
こういうことに、ものすごいドラマとロマンを感じるからである。
だからもちろん、このテーマを扱った『サルは大西洋を渡った』(みすず書房。原著は2014年刊)は買って持っている。
そこで思うのは、こういうことを可能にするサルという生き物の「適度な大きさ(小ささ)」と「雑食」という強みについてだ。
木が生えている浮き島は、その根によって渡海中にも土を保持する効能がある(と思う)。
その木が果実を結ぶ種類であれば、それはサルの渡海中の(保存が効く)食糧になる。
これは果実を食べるサルだからこそ得られる利点であって、肉食獣や草食獣ではこうはいかない。
サルは大西洋を渡って南米に分布することができたとしても、ライオン・チーター・シマウマなんかはそうはいかなかったのはこれが理由だろう。
またネズミなんかはいかにもこんな渡洋分布に適していそうな小ささだが、ネズミはネズミで「毎日大食らいしていないと死んでしまう」という燃費の悪さがある。
雑食のサルならば浮き島に残る果実や昆虫を食べ、またそれが尽きても水さえあれば(人間がそうであるように)数日間は生きのびられる。
およそ哺乳類の中で、サルほど渡洋分布に適した種はないと言っても過言ではないのだろう。
しかしそれでも、こんなことが成功するのは何百万年に2回か3回だったようだ。
私としては将来的に、こんなことはもっと多数回起こったことが明かされるのではないかと思っているのだが……