名前はともかく顔だけは――ごく若い頃の顔だけは――日本人で知らぬ者もないほどの超有名人、桐島聡(70歳)容疑者がついに逮捕された。
なんでも偽名を使って神奈川県内の某病院へ末期癌のため入院していたが、突然自分から「本名を名乗る」と言い出して本当に本名を語ったらしい。
さて、彼が超有名人であるというのは、何十年も日本中の至るところへ指名手配の顔写真が張り出されていたからだ。
しかもその顔写真というのが、稀に見るほどの「爽やか青年」の笑顔であるのは周知のとおり。
こんな爽やかな笑顔の人が指名手配犯なのかと、あの指名手配写真を見るたびにある種の感慨に打たれた人は、今まで累計何百万人・何千万人いたかわからない。
その顔写真と並んだ他の指名手配犯の顔写真というのが、見るからに凶悪犯罪者の顔つきがほとんどなのだから、なおさらそのコントラストは印象的だ。
しかし、それにしても、である。
1975年に指名手配されてから48年間、今の今まで(おそらくはずっと国内で)逃げ続けてきたというのは、実にスゴいことである。
しかも最後は捕まったとか通報されたとかではなく、自分から名乗り出たのである。
(いったいどうやって「偽名」で入院できるのか、そんな病院があるのか、健康保険証や医療費はどうしていたのか、続報が待たれるところだが……)
あまり同列に置くのは良くないのだろうが、これは“最後の日本兵”横井庄一氏や小野田寛郎氏に匹敵するようなドラマではあるまいか。
ところでこの「永遠の爽やか青年」がやったのは、1974年から75年にかけての連続企業爆破事件であった。
特に有名なのは「三菱重工ビル爆破事件」で、これは当時の日本を大ニュースとして激震させたものだ――
とは言っても、それから50年も経った今では、何のことだか全然知らない人も多数いると思われる。
いや、たとえ覚えている人がいても、「そんなこともあったなぁ(あったかなぁ)」程度のもののような気がする。
時の流れは残酷なもので、全てを歴史化するものである。
彼が属した「反日武装戦線“さそり”」という組織名、その同類の「反日武装戦線“狼”」というやたらカッチョいい組織名は、確かに一度聞いたら忘れがたいインパクトがある。
だが彼らが起こした連続企業爆破事件となると、もはや現代人にとっては「二・二六事件」「桜田門外の変」と同じような、遠い歴史上の出来事みたいな印象ではないだろうか。
ああ、往時茫々……
三菱重工ビル(の正面玄関前)爆破事件だけでも、通行人ら8名が死亡し380人が重軽傷を負っている。
こんな特大級の凶悪テロ事件でさえ、50年経たずして歴史化して「何それ?」「何だったっけ?」の世界になる。
2017年には中核派の大物・大坂正明が逮捕され、すぐ後にはまさに連続企業爆破事件の死刑囚・大道寺将司が病死した。
そして今度は、ついに超有名な永遠の爽やか青年が70歳で「自首」してきた。
(⇒ 2017年5月23日記事:大坂正明、ついに逮捕-21世紀の中核派は「変な宗教」になった)
(⇒ 2017年5月25日記事:連続企業爆破犯・大道寺将司が病死-妻・大道寺あや子と「今週のどうでもいいニュース」)
いったい1970年代の、あの極左過激派の全盛期かつ黄金時代は何だったのか。
あの時代には、とにもかくにも燃え上がるような情熱が横溢していたわけだが、あれは何だったのか、何になったのか。
時の流れは残酷にも、全てを空しさの中に還元していくのだろうか……