沢尻エリカ(33歳)と言えば、「別に」の女である。
その沢尻エリカが11月16日、合成麻薬MDMAを自宅に所持していたとして、警視庁に麻薬取締法違反容疑で逮捕された。
私は芸能界や女優に全く興味を持っていないが、それでもこの「別に事件」は覚えている。
と言うか、沢尻エリカについて知っているのはこのことだけと言ってよい。
2007年に自分の主演映画『クローズド・ノート』の舞台挨拶で、司会に「印象に残ったシーンは?」と聞かれると「特にないです」と素っ気なく答え、
さらに「ご自分がクッキーを焼いて撮影現場に届けたそうですが、その時の心情は」と聞かれると、「別に」と凍り付くような素っ気なさで答えたそうだ。
この一件で、世間が彼女を見る目は「悪の女」となった。
「態度の悪い、性格の悪い女」となった。
この当時のバッシングは本当に大がかりで、まるで日本国民みんなが一斉に義憤を感じて立ち上がったかのようだったと記憶している。
(ちょうど最近の「あおり運転犯」に対するようなものだ。)
今でもそんなに芸能界に関心のない人にとっては、彼女の印象はその時のままではないだろうか。
しかしいつの間にか、彼女は「復権」を遂げていた。
近年彼女は、(私は知らなかったが)CM界で大活躍をしているのだ。
サントリーの「ほろよい」、
P&Gの「レノアハピネス」などなど……
そして逮捕前日の15日には、仕事探しのインディードの新作CMが発表されたばかりだった。
しかもなお、来年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』にも出演が決まっていた。
これはある意味、あんな印象激ワルの「事件」があったにもかかわらず、
今でもそのことを覚えている国民が多いにもかかわらず……
サントリーとかペプシとかP&G、インディードやNHKといった錚々たる(しかもコンプラを重視しているはずの)大企業から、
沢尻エリカは「許されていた」ということである。
一般人で言えば、昔は確かにワルだったが、周りから「更生が認められていた」ということである。
しかし彼女は、その信頼を裏切っていたということである。
これは何を意味するか。
もちろん、「やっぱりワルはワルの態度が表に出る」「そんな気配を出した奴は信頼できないからやっぱり使うな」という、
いわゆる「世間の偏見」が、結局は正しいんじゃないかということを意味する。
いや、正しいとまでは言わないが(大きい声では言えないが)、少なくとも無難ではあることを意味している。
当然ながらあの「別に」事件は、それこそ「別に」犯罪ではなかった。
しかし兆候ではあった、と今なら誰でもしたり顔で指摘できる。
やっぱりあんな態度を公の仕事の場で、それも自分の主演映画の舞台挨拶の場で取るというのは、尋常な態度の悪さではない。
だから彼女は反社会性を秘めた危険人物である、その可能性がある、だからウチのCMなんかに起用すべきではない……
と考えるのは、手堅い考え方である。
そのように考えることを「偏見だ」と指弾するのは、こういう事件が起きるたびにますます難しくなっていく。
つまるところ、サントリーもペプシもP&GもインディードもNHKも――
実に見事に(人選を)大失敗して大恥をかき損害も被ることになったのだから、むしろ「偏見」さえ持っていれば、こんな痛恨事は起こらなかったはずである。
これは、実に深刻な話だ。
偏見を持つのは悪いこと、と世間では公式には言われているが――
実際には偏見こそがコンプライアンスとイメージを守ることに繋がる、その実例がある、となれば、
会社や社会はむしろ偏見を持って、元犯罪者や単に「悪い態度を取ったことがある人」に接するのが正しいということになる。
罪を犯した人の更生を支援しましょう、などとPRしている法務省などは、こういう事件が起きるたびに頭を痛めているはずである。
いや、そうではなく、たぶん中の人も……
「仕事だからしょうがなくこんなポスター作ってるけど、やっぱり元犯罪者とか態度の悪い奴なんて信用できねーよな」
と思っている人が、多いのではないかと思われる……