プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

社会、ニュース、歴史、その他について日々思うことを書いていきます。【プロレス・格闘技編】はリンクからどうぞ。

岸田首相襲撃犯、英雄視か同情視か変人視か

 4月15日の岸田首相襲撃(爆殺未遂)事件で逮捕された24歳の男性は、非常に政治意識を強く持つ人だったようだ。

 自民党と旧統一教会の繋がり、世襲議員の横行を自身のSNSで強く批判する、というのはやっている人はゴマンといるにしても、自分自身でも参議院選挙に出ることを考えていた。

 しかし当時23歳で、年齢制限(参議院議員の出馬可能年齢は30歳から)に引っ掛かるため――

 その年齢制限と供託金300万円を要するというのが憲法違反だとして、弁護士を雇わない本人訴訟で裁判所に国を提訴までしていた。

 精神的苦痛を受けたとして、10万円の損害賠償請求を添えてである。(これはよくあること)

 このことについての彼の「主張全文」を読んだが、なかなか説得力(アピール力)があると思う。

 おそらくこの人、頭はなかなかいいのである。勉強もする気があるのである。

 これくらいの文章を自力では逆立ちしても書けない人というのは世の中にゴロゴロいるだろうし、本当に本人訴訟しょうという気になる人は、逆に世の中にごく少ない。

 そんなこと知力的・気力的にできもしない人の方が、はるかに多いはずなのだ。

 そしてこのように、彼のこれまでの人生や生活などの背景(バックストーリー)を深堀り報道することについて、「過剰な物語化」であり「テロリストへの賛美・同情を助長する」ものだという批判も起こっている。

(⇒ ニッポン放送ニュースオンライン 2023年4月19日記事:「テロに至る経緯」を過剰に「物語化」してしまう日本のメディア)


 しかし私としては、こういうバックストーリー・ヒューマンヒストリーの報道は大歓迎である。

 なぜなら好きだからだ、そういうのが。

 確かに知ったからとてどうなるわけでも何をするわけでもないが、ある人間が何かの行動に至った経緯・過程というのは、あなたにしても興味津々ではあるまいか。

 凶悪連続殺人犯の生い立ち・経歴、浅野内匠頭吉良上野介を襲った理由、9.11同時多発テロ実行犯が実行犯になるまでの経緯、あなたはそういうことを知りたくないだろうか。

 別にそれを知ったからとて、あなたは彼らに同情するわけではないと思う。

 私はたぶん特別に「同情心を抱かない」タイプの人間なのだと思うが、そういう観点からしてみれば、いくら犯罪者やテロリストのヒューマンヒストリーを報道されてみたところで、彼らに同情・賛美・肯定する気持ちを持つ「おそれ」はゼロである。

 というか、これはあなたも同じだと思うが、知れば知るほど同情する気が失せていくというのが正直なところではないか。

 
 今回の件にしても、あなたはどう思うだろうか――

 現今の政治や被選挙権年齢制限などに疑問・反感を持つのは全くかまわないにしても、

 それを憲法違反として本当に裁判所へ提訴したり、

 市議会議員の政治報告会へ行って議員にそのことについて話を吹っ掛けたり、

 もっと言えば、有名人でもないただの一般人23歳が(53歳でも同じだが……)国会議員に立候補しようとしたり、

 ましてやそれを理由に首相を襲撃する。(これが理由なのだろう、たぶん)


 これは、一言で言って「変人」である。

 こういう人は世間に大勢いて、実際に彼らが起こす小犯罪・小事件は毎日報じられている。

 今回の首相襲撃犯も、全くそれと同類であり同一延長線上にある。

 正直なところあなたにしても同情度では、安倍元首相襲撃殺害犯の方が、今回の岸田首相襲撃犯よりはるかに上のはずだと思う。

 それは、前者の方は変人性がほとんど感じられないのに対し、後者の方はハッキリと変人性が感知されるからだ。

 こういう人は、首相こそ襲いはしないが町内会とかでもザラにいそうである。

 みなさんは、今回の事件について報じられれば報じられるほど、そう感じるのではないか。


 もし「何かの事件の実行犯のバックストーリーを報道する」ことが有害なのだとすれば――

 それは「ちょっとばかり変わったくらいの人が、犯罪者予備軍扱いされるようになる」ことだと思う。

 端的に言えば、「本人訴訟するような奴、議員に立候補しようとするような奴」はアブナい危険人物である、と見なされるということだ。

 しかし確かに、そういうことが大事件を起こす人間の予兆の一つであるのは真実かもしれないというのがまた、難しいところなのであるが……