プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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21世紀の八つ墓村、横溝正史の土俗世界-青森5人死亡火災事件

 4月13日、青森県六戸町犬落瀬で8人家族の家が全焼し、焼け跡から家族4人と、近所に住む親族男性92歳の焼死体が見つかった。

 原因は、この92歳男性の放火によるものと見られている。

 そしてこのバックストーリー、「80年にわたる怨念」というのが、ものすごいのだ。

(⇒ 集英社オンライン 2023年4月17日記事:「ムラの掟をやぶった…」「住むにはムラの血が必要だ」放火の疑い・92歳老人が抱えてきた80年以上続く遺恨「氏神の祟りにあったと陰口を叩かれていた」《青森5人死亡火災》

 いったいこんな話を読んで、「八つ墓村」「金田一耕助シリーズ」「横溝正史の世界」という感想を持たない人がいるだろうか。

 今は2023年であり1923年ではないのだが、これはまさに大正から昭和前期の土俗の世界である。

 全国の十文字さんには申し訳ないが、「十文字」という苗字、「犬落瀬」という地名、ムラの掟・ムラの血、「氏神様の祟り」など――

 もう、どれを取ってもまるっきり横溝正史の世界なのである。犬神家の世界なのである。

 こんな世界が――こんな世界に生きる人が――2020年代の日本にまだ残っているというのは、感動・感嘆ものだとさえ言える。

 本当に日本は広いというか、奥が深いというか、とにかく一筋縄ではいかない国だ。

 もっとも、この放火犯と見られる老人も92歳だったのだから、いよいよこの「古き土俗の日本」も消滅しようとしているのだろう。

 かつて日本の村々の祭りでは

「誰かに神様が降りてきて、その口走るお告げを拝聴する」

 というのが大真面目に普通に行われてきたというが、さすがにそれは(いずこともなく静かに)消滅した。

 今回の大事件は――こんな言い方は不謹慎だが――、土俗日本の最後の輝きみたいなものなのかもしれない。

 それにしても、確かに今年4月13日までは、DXだのチャットGPTだのオンラインゲームだのVチューバ―だのの話で盛り上がっている人たちと同時並行で、

 ムラの掟や血の世界、土俗の怨念を胸に抱いて生きていた人が、確かにいたのである。

 これに何らかの感慨を抱かない人は、いないのではあるまいか……