4月13日、青森県六戸町犬落瀬で8人家族の家が全焼し、焼け跡から家族4人と、近所に住む親族男性92歳の焼死体が見つかった。
原因は、この92歳男性の放火によるものと見られている。
そしてこのバックストーリー、「80年にわたる怨念」というのが、ものすごいのだ。
いったいこんな話を読んで、「八つ墓村」「金田一耕助シリーズ」「横溝正史の世界」という感想を持たない人がいるだろうか。
今は2023年であり1923年ではないのだが、これはまさに大正から昭和前期の土俗の世界である。
全国の十文字さんには申し訳ないが、「十文字」という苗字、「犬落瀬」という地名、ムラの掟・ムラの血、「氏神様の祟り」など――
もう、どれを取ってもまるっきり横溝正史の世界なのである。犬神家の世界なのである。
こんな世界が――こんな世界に生きる人が――2020年代の日本にまだ残っているというのは、感動・感嘆ものだとさえ言える。
本当に日本は広いというか、奥が深いというか、とにかく一筋縄ではいかない国だ。
もっとも、この放火犯と見られる老人も92歳だったのだから、いよいよこの「古き土俗の日本」も消滅しようとしているのだろう。
かつて日本の村々の祭りでは
「誰かに神様が降りてきて、その口走るお告げを拝聴する」
というのが大真面目に普通に行われてきたというが、さすがにそれは(いずこともなく静かに)消滅した。
今回の大事件は――こんな言い方は不謹慎だが――、土俗日本の最後の輝きみたいなものなのかもしれない。
それにしても、確かに今年4月13日までは、DXだのチャットGPTだのオンラインゲームだのVチューバ―だのの話で盛り上がっている人たちと同時並行で、
ムラの掟や血の世界、土俗の怨念を胸に抱いて生きていた人が、確かにいたのである。
これに何らかの感慨を抱かない人は、いないのではあるまいか……