これは地味に、今年最大のサイエンスニュースかもしれない。
10月11日、奈良女子大学と大阪市立自然史博物館らの研究チームは、あの有名な纒向遺跡(奈良県桜井市)の3世紀後半という古墳時代の土壌から、世界最古とみられるチャバネゴキブリの破片を発見したことを発表した。
(⇒ YTVニュース 2023年10月11日:世界初『日本列島に古墳時代からゴキブリ』奈良の纒向遺跡からチャバネゴキブリの破片発見 世界最古か)
チャバネゴキブリは言うまでもなく、害虫の中の害虫――
通称「G」と呼ばれる、“核戦争でも生き残る”と専らの評判のあの昆虫である。
しかし私は、こんなのは世界中に昔から棲息しているものだと思っていた。
ところがどうも学会では、チャバネゴキブリはアフリカ北東部が原産地であり、日本には江戸時代末期にもなってやっと入ってきたと推定されてきたという。
え、そんなに遅く入って来たの、とビックリした人(そんなこと初めて聞いた人)も非常に多いのではないか。
それが一気に1400年以上も遡るのだから、
しかも原産地はアフリカ北東部どころかこの日本かもしれないなんてことになるのだから(全然チガう)、
つくづく考古学や生物学とは、悪く言えば運任せの学問である。
ところでこの分野に無知な私が不思議なのは、「ゴキブリ」の語源は「御器かぶり」だという、あの有名な話である。
この名は江戸時代に由来する、ことによると平安時代にも遡る、なんて昔々に呼んだ本に書いてあった気がするのだが――
しかしチャバネゴキブリが日本に渡来したのは江戸時代末だというのが定説だったのなら、それ以前の人が見ていたゴキブリというのはチャバネゴキブリではなく、何か別の種類のゴキブリだったという話になっていたのだろうか。
で、その「別の種類のゴキブリ」というのは、何のゴキブリだったのか。
今の我々が見るゴキブリは、そして知っているゴキブリは、チャバネゴキブリだけである。
さすが最強害虫の名に恥じず……と言うべきか、江戸時代末期に初めて日本へやってきて200年も経たないうちに、「その他のゴキブリ」を駆逐してしまったというストーリーになっていたのだろうか。
だが、今回の発見で、やはり我々の先祖が見ていた「アブラムシ」というのも、やはり今と同じチャバネゴキブリだったということになりそうである。
それはむしろ新発見というより、現代人にとって馴染み深く納得のいく過去の日本の姿だ、ということになるだろう。
いや、しかし、これまでの定説による「江戸時代末期以前の日本のゴキブリ」というのは、どのゴキブリが想定されていたのだろうか……