プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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タイタニック見学潜水艇遭難事件-究極の「コト消費」とリスク

 6月18日、大西洋の海底3800メートルに沈んだ『タイタニック』を見学(観光)に出かけた潜水艇が、消息を絶った。

 これを書いている現在でも捜索が続けられているが、おそらく救出は絶望的である。

 たぶんタイタニックと同じ海底3800メートルに着底していると思われるのだが、それを引き上げるのはまず無理だ。

 この「8日間の見学ツアー」の参加費は1人3500万円、潜水艇に乗っている5人は次のとおり。

パキスタン人の企業経営者(富豪)1人とその息子1人

宇宙旅行経験者でもある富豪のイギリス人1人

●“ミスタータイタニック”と称されるフランス人探検家1人

●ツアー主催会社「オーシャンゲート」のCEO1人

 そして映像を見れば誰もが思うように、この潜水艇というのは驚くほど小型である。

 あんなのに5人が閉じ込められて深海で絶望の死を迎えるというのは、想像するだに恐ろしい。

 
 ところで、不謹慎かもしれない――と感じながらも誰もが思うのは、

(1) そもそも「ツアー」「観光」でタイタニックを訪れるのが罰当たり

(2) あたら金持ちが、わざわざ大金を払って死にに行った

(3) わざわざ深海へ行ってそんなもの見たいか、見てどうするのか

 という3点ではあるまいか。

 もっと言えば、「いい気味」「溜飲が下がる」「スカッとする」なんて感じている人も、世界中に何千万人もいるのではないか。

 「他人の不幸は蜜の味」と言うが、こういうのはさしずめ「スカッと他人の不幸」事件とも呼べる。

 こんなのに3500万円も出せる富豪と言えども――地球上の誰と言えども――、人間のこうした感情からは逃れられないのだ。

 
 それはともかく上記(1)~(3)については、感性の違いであるので、それをやる人を批判しようとは思わない。

 私はスカイダイビングもやりたくないし、ジェット戦闘機の操縦も、それどこか電車の運転さえやりたいと思ったことはない。

 富士の樹海へ行ってみたいとも思わないし、沈没船の史跡見学をしたいとも感じない。

 そういうのは映像だけで十分で、自分の目で見たいとか体験したいとか、その手の感性は一切ないのだ。

 しかし世の中には、どうしてもそういうことをしたい人がいる。

 そういうことをして心の栄養にしたい人、「話のタネ」にしたい人がいる。

 どんなにカネがあっても、冒険なくして何の人生ぞ――

 それも一つの人生観であって、少しも悪いことではない。

 ただそれは私の人生観ではなく、興味もないというだけである。


 ところでこの3500万円のタイタニックツアーは、宇宙旅行と並ぶ「究極のコト消費」とも言える。

 しかし言うまでもなく、そんなコト消費には今回の事件のようなリスクが付きまとう。

 おとなしく暮らしていればこんな事故に遭うはずもないのに、冒険心を出してわざわざ自分から危地に乗り込んで悲惨な目に遭うというリスクである。

 昔は本物の冒険家がそういうリスクを承知で探検行に挑んだものだが、

 今は好奇心旺盛でアクティブなコト消費者こそそんなリスクを承知で楽しもうとしている、といったところだろうか。

 しかし、全然コト消費者でない私がいつも思い浮かべるのは――

 「どんな体験も、どうせ忘れちゃうだろ」

 という素朴な疑問なのだ……