4月19日、中国の上海モーターショーで、ドイツの自動車メーカーBMWのブース。
中国人女性客がお土産として配られていたアイスを求めた際、中国人女性スタッフは「もう終了した」と断ったのにも関わらず、
その直後にやってきた外国人男性客にはアイスを渡す(笑)という事件が発生し、その様子が動画に撮られておりSNSで拡散したことで、中国全土で反BMW旋風が吹き荒れる事件となった。
(⇒ 読売新聞 2023年4月25日記事:「アイス事件」怒り続ける中国、BMW不買運動も…抗議のため自ら買った大量のアイス配る来場者)
いま(笑)と書いたが、確かにこれは、アイスをもらえなかった人にとっては本当に激怒ものの案件だろう。
しかしそんな街角の一風景、ちょっとした個人的な案件が全国数億人の怒りにも火をつけてしまうのが、現代なのだ。
さて、私がこのニュースを聞いてまず思ったのは、「これは日本でもありそうな話だ」ということである。
今回の事件は、「中国人」女性に「中国人」スタッフが――もう終了だと嘘をついて――アイスを渡さなかったというものだ。
別にBMWからわざわざそうするよう指示が出ていたのではなく、あくまでこの中国人女性スタッフの感覚によるものだと思われる。
そしてこれは、「中国人」を「日本人」に置き換えてみても成立する……「発生する」ことなのではあるまいか。
日本人が日本人相手には冷たいが、外国人には優しく振舞う。サービスする。
これは極めてありそうなことと、あなたは思われないだろうか。
日本人が外国で日本人に出会うと、無視する――
これは、かなり多くの人が経験している(やったことがある)と思われる。
そしてタトゥー(入れ墨)が特に代表的な例なのだが、日本人には「日本人がやるのは許せないが、外国人がやるなら受け入れる」なんなら「称賛する」という性癖があるようなのである。
(⇒ 2016年5月29日記事:オバマ大統領の広島訪問と被爆者抱擁 「日本人がやっても日本人は感動しないが、外国人がやると日本人は感動する」法則)
私は、これほど嫌い合っている日本人・韓国人(朝鮮人)・中国人ではあっても、所詮は東アジアの似た者同士だと思っている。
そしてこの面でも、中国人は日本人と似たところがあると思うのだ。
つまり中国人も日本人のように、同国人(東アジア顔)には冷たいが、白人にはなぜかサービス反応するというクセがあるのではなかろうか。
いったいこの共通のクセは、何に由来するのか……
これは、なかなか興味深い文化人類学の素材だと思うのである。
そしてもう一つ、ショー開幕日の18日、BMWのツィプセ会長は「BMWの心は中国にある」とスピーチし、中国での投資拡大方針を示したらしい。
(今すでに、ドイツの最大の貿易相手国は中国だ。)
これについても私は、思うのだ――
「BMWの心は中国にある」なんてセリフをヌケヌケと朗々と公明正大に言えてしまうなんて、いかにも欧米らしい、と。
日本人にはこういうこと、なかなか言えないものである。
もし日本人がこんなことを言うとすれば、それはその日本人がいかに欧米に染まっているか、の証明と言っても差し支えないのではないか。
そしてもし日本人がこんなこと外国で言えば、他の日本人は間違いなく「クサい」と感じてバカにするだろう。
それだから日本人はこんなこと言えない、しかし外国人が言うのはストレートに受け入れる、そんな面があるのを誰が否定できるだろうか。
これだからアングロサクソンは、と口を突いて出そうになるが、むろんBMWとドイツはアングロサクソンでなくゲルマンである。
だから「わが社の心は中国にある」なんてヌケヌケと言えてしまうのは、やはり総体として欧米人の臆面もなさと言うべきだろう。
東洋人は東洋人に対して冷たく、欧米人は相も変わらず臆面もない。
そういう「伝統文化」が、今回の事件にも表れていると思うのである。