プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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オバマ大統領の広島訪問と被爆者抱擁 「日本人がやっても日本人は感動しないが、外国人がやると日本人は感動する」法則

 5月27日(金)夕方、オバマ大統領が現職のアメリカ大統領として初めて被爆地・広島を訪問した。

 原爆資料館を約10分間見学後、安倍晋三首相と原爆慰霊碑へ。そこで17分間にも及ぶ演説を行った。

 たぶん大方の人が「数分のスピーチで、内容も別に何てことのない抽象的なことだろう」「消化演説みたいなものだろう」と思っていたと思うが――

 どうやらその場にいた人(英語のわかる人、ということだろうと思う)たちは皆感動したようである。

 また、多くの報道でも「歴史的演説・歴史的訪問」とされている。

 私もスピーチ全文を日本語訳で読んだが、感じたのは、やはりアメリカ大統領のスピーチライターというのは非常に能力が高い、ということである。

 
 そして今回の訪問で最もインパクトがあり世界中に報じられたのは――

 オバマ大統領が「涙ぐむ被爆者を抱き寄せ、背中をさすりながら抱擁する」写真だろう。

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 この被爆者は、森重昭(79歳)氏

 私もこのたび初めて知ったのだが、この人は広島で被爆死したアメリカ軍捕虜12人のことを40年にわたり調査し、遺族全員を探し出したという人らしい。

 著書に『原爆で死んだ米兵秘史』(光文社 2008年)があり、さっきamazonで見てみると「現在品切れ中」となっていた。

 しかもこの人、専門の歴史家ではなく、普通に会社勤務しながら休日を利用してこういう成果を上げたのである。

 誰にでも余暇時間は多かれ少なかれあるはずなのに、こういうことをやる人とやらない人(やれる人とやれない人)がいる――

 そして、やる人/やれる人の方が圧倒的に少ない。

 森氏は、その少数の、普通でない方の人ということだ。  


 それはともかく、私はこの「オバマ大統領の被爆者抱擁」が感動的なことと人々に受け止められたことについて、どうしても感じることがある。

 それは以前の記事でも書いたこと――

tairanaritoshi.blog.fc2.com


 すなわち「被爆者を抱擁して背中をさする」というのもまた、「全く同じことをやっていても日本人がやると猿芝居に見えるが、外国人がやるとサマになる/しっくりくる」現象の一つではないか――

「日本人がやると日本人は感動しないが、外国人がやると日本人は感動する」現象の一つではないか、

という感想である。

 

 はたしてあなたは、安倍首相でなくても他のどの日本人の政治家であろうと、被爆者を抱き寄せて背中をさするなどということをすると思うだろうか。

 いや、仮に万一やったとして、それが「好意的に」「感動的に」日本人に受け止められ、報道されるなどと想像できるものだろうか。

 日本人は、公の場でそういうことをしようとは思わないものである。

 また、やられる方も、そんなことをされたいとは思わないものである。

 しかし相手がガイジン(外国人)となると話は違う。

 思うに森氏も、もし相手が日本人の首相だったら、抱き寄せられて感動するなどということは決してなかったのではないか。

 無礼で常識外れで、しかもなお嫌悪感・拒絶感をもナチュラルに反射的に覚えたのではないか。

 そしてそれを見る我々の方も、感動どころか「バカか、ナメてんのかコイツは」とナチュラルに反射的に感じるのではないか――

 これは、的外れな推測ではないと我ながら思う。


 なお、オバマ大統領は森氏を抱き寄せる前、被爆者代表として出席していた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の坪井直代表委員(91歳)と話をしている。

 坪井氏は「自分は91歳になったが、オバマ大統領が人類の幸せとは何か語るのを見て、心がずいぶん若返った。(2009年に)プラハで語った『核兵器なき世界』の実現に向け一緒に頑張りましょう」と言い、興奮しながらこう話す坪井さんの手を握りながら耳を傾けたオバマ氏は、時折笑顔を見せ、「ありがとう」と応じたそうである。(時事ドットコム5月27日記事による)

 茶々を入れる気はないのだが、もし日本人の首相がオバマ演説と全く同じ内容を日本語でスピーチしたとして――

 坪井氏が興奮してこんなことを言うこともまた、決してなかったのではないかと思う。

(また、その興奮した言葉に「ありがとう」の一言しか応じないというのも、オバマ大統領でなければ「どうなんだ」と感じるに違いない。)


 そしてまたケチを付けるつもりもないし当たり前のことでもあるのだが、オバマ大統領は、敵勢力の殺害を命令・承認している人物でもある。

(⇒ 2016年5月26日記事:タリバン最高指導者、また交代 今週のどうでもいいニュースとゲーム戦争、テロ組織の「炎上商法」)

 この点、被団協の人たちの感想も聞いてみたいものだと思うのは私のイジワル心のなせるわざだろうか?


 今回のオバマ大統領広島訪問で感じたのが――

「イケメンがやるとキャーと騒がれるが、ブサメンがやると、違う種類のキャーという声が上がる」法則の再確認であった、

 と言えば、あまりに卑近な感じ方になるだろう。

 しかし日本人にとって、「日本人がやると反発や嫌悪を感じるが、外国人がやると感動したり好意的に受け止められる」ことが非常に多くありまくるというのは、

 これから我々がほぼ永久的に繰り返し確認する法則だということは、争う余地がないものと思われる。