元総理大臣・安倍晋三 氏が撃たれて心肺停止――
この一報を聞いたとき、あなたは瞬間的に誰がやったと思っただろうか。
私が直感したのは、「氷河期世代の40代の男性」という犯人像であった。
こう直感した人は、他に何百万人もいるに違いない。
男性であるのは当然のこととして――女性が銃で政治家を撃つことはほぼないから――、なぜ氷河期世代の40代だと思ったか。
それは「安倍晋三」と「竹中平蔵」の二人が、氷河期世代と日本経済を悲惨な境遇に落とし込んだ戦犯であり悪のツートップ、まるで地上最凶悪コンビみたいな扱われ方をネットでしばしばされているからだ。
まったくネットを見ていて、そういうコメントを全く見ないで済ますことはできないほどに、この「見方」は広く世の中に浸透している。
特に竹中平蔵 氏など、「派遣を増やして日本人を低賃金化させ、それでいて自分は派遣大手のパソナの会長になって大儲けしている」として、日本最大の悪玉みたいな扱いである。
だから私が今回の第一報を聞いて「氷河期世代の復讐か」と直感したのも、
「次の標的は竹中平蔵ではないか」と連鎖して直感したのも、
無理からぬことかもしれない(と、自己弁護しておく)。
ところがどっこい、今現在報道されているところでは――
この犯人の男は動機について
「某宗教団体のトップを狙ったが接触できず、代わりに(その宗教団体と繋がりがある、とされる)安倍晋三を狙った」
「自分の母親がその宗教団体の信者で、金を貢いだせいで家が破産した。だからその宗教団体は許せない」
という風に語っているらしい。
もしこれが本当なら、実にパーソナルな動機である。
そしてまた、斜め上過ぎて誰も当てられない動機である。
いったい「安倍晋三が暗殺されるとして、その動機はどんなものか」と問われ、こんな動機を的中させられる人がいるだろうか。
だいたい、本命があの安倍晋三じゃなくどこかの宗教団体のトップであるということ自体、なかなか市井の人には思いつかない発想だ。
(それは逆に、犯人の自供にリアリティを持たせることにもなっている。)
事実は小説より奇なり、事実は想像を超える――
と言うより、事実とは決して単純でもストレートなものでもない、ということなのだろうか。
ともあれ犯人は安倍晋三を狙うと決めたら、その遊説先の岡山にまで行って機会を伺ったらしい。
しかしその時は果たせず、(たまたま)次の遊説先が自分の自宅付近だったことを利して、決行に及んだらしい。
それにしても、その自宅からは6丁もの自作銃が見つかったとのこと。
報道された写真を見ると、まるでSFアクション映画にでも出てきそうな「映える」造形の代物である。
こんなのをコツコツ作る根気があるなら、同じく根気よく某宗教団体トップの動静を追い、何とか近づくこともできたんじゃないかと思ってしまう。
だが、考えてみれば、それなりの規模の宗教団体のトップになんてどうやって接触すればいいのか、どうやって自作銃の射程6メートルくらいまでに近づけるのかは、確かに私にもわからない……
だから宗教団体のトップというのは、「暗殺しにくい人」の代表例と言っていいのかもしれない。
(それだって、側近信者の造反というのはありそうなものだが。)
とはいえ誰でも思うように、宗教団体トップの暗殺を諦めたから「次善の」安倍晋三の暗殺に走る、というのも天地の飛躍がある(と、少なくとも第三者には見える)。
犯人は、3年間は海上自衛隊に在籍した。
報道によると、宅地建物取引士とファイナンシャルプランナー2級の資格も持っている。
しかし最近は派遣社員として、肉体労働類似の仕事についていた(しかし無断欠勤の末、今年5月に退職したという)。
なんかやはり、こういう経歴を見ると、「不遇を強いられた氷河期世代」というキーワードが、えも言われず匂い立ってくる気がしまいか。
本人は昔から存在感がなく、内気で愛想も悪かったという「周囲の人の証言」もあり、それこそパーソナルな要因で人生に成功しなかったという面もあろうが……
やはり「氷河期世代」というパーソナルならざる要素が、「本命じゃない安倍晋三を襲撃殺害」という「飛躍」を埋める要素ではないのか、との感想を拭えない。