プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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情報淫楽症または情報オナニーの時代-コロナ陰謀論にカネを払う人

 新型コロナウイルスはデッチ上げであり何者か(世界支配層・富裕層)の陰謀であり、

 ワクチン接種ももちろんその一環であり、

 それどころかむしろ病気を拡散させ、

 マイクロチップを体内に埋め込む手段である――

 というようなことを主張するコロナ陰謀論・反ワクチン論が、世界的に人気を集めているとのこと。

 東京のある歯科医師などは会員制オンラインサロンを運営し、その会費は月額2,980円。

 会員数はなんと3,900人以上いて、単純計算で月収1,000万円超を得ているという。

(⇒ 読売新聞 2021年9月12日記事:「医師の発言」で接種不安拡散、有料サロンで誤情報…[虚実のはざま]第4部 深まる断絶<3>)

 「愚か者には、常にそれを応援するさらに愚かな者たちがいる」という警句があるが、まさにそれを地で行くかのような話である。

 しかしこれ、根本的に不思議なのだが――

 なぜ「歯科」医師が新型コロナについてそんなに詳しいのだろうか。

 なぜ世界の公的機関が否定していることを、逆に否定するほどの知見があるのだろうか。

 いや、それよりも、なぜ人はその人が(ただの町医者が)そんなに詳しいと思えるのだろうか。

 月額2,980円というのは、決して安くない。

新日本プロレスの試合が膨大に見れる新日本プロレスワールドの月額は、999円である。)


 普通の人の感覚では、そんなのに月額2,980円も払って加入する人なんてほとんどいないと思われる。

 しかしその感覚は、ハッキリと間違いだと事実が立証してくれている。

 確かにいるのである、そういう人は。

 運営者に月収1,000万円をもたらしてくれるに充分な数が――


 これはまさに、陰謀論の勝利である。

 『ムー』や『Xファイル』、そして無数の書籍やドラマや映画の数々が、世界中で陰謀論をテーマにしてきたことは無駄ではなかった。

 世界は陰謀で満ちている、それが主軸になっているとの世界観は、まさしく世界に根付いた文化となった。

 それこそ陰謀論は、世界を動かす主軸の一つになったと言って過言ではない。

 陰謀論は、世界的巨大産業にまで発展したのである。

 
 ところで、コロナ陰謀論のサイトに月額2,980円も払って会員になろうという人は、相当に――世間から飛び抜けて――情報感度が高い人のはずである。

 だが、まず間違いなく、彼ら彼女らは「対照情報」を集めても読んでもいない。

 一般に、もし何かの事象・論題に興味があるのなら、それについての賛成と反対の両方の情報を比較検討するのが当たり前だ。

 これを否定する人は、一人もいないはずである。

 しかし実際の行動では、むしろ否定する人が100%近くに及ぶと思う。


 もし、人が日本の戦争責任に興味があるとすれば――

 それがあると主張する本と、ないと主張する本を両方読んで自分なりに判断するのが当然である。

 しかし誰もが思うように、その当然は当然ではない。

 もちろん人は、どちらか一方の本や記事ばかり読むのである。それで信念を強めるのである。

 いや、信念を強めると言うよりも、明らかにそれで快感を得ているのだ。

 人を殺して快感を得ることを「殺人淫楽症」と言うが、それになぞらえればこれは「情報淫楽症」と言える。 
 
 もっと卑俗に言えば、「情報オナニー」とでもなるだろうか。

 ワクチンでなく陰謀情報を摂取することで快感を得る人は、この世に確かにいる。

 それは結局、人間の根本というか核心には、「自分は何が好きか」というのがあるからだ。

 それが好きでなければ、快感でなければ、誰が月額2,980円も払うだろうか。

 
 陰謀論には、ファンがいる。そして確かに、面白みや魅力がある。

 おそらくワクチン陰謀論を好きな人は、他の陰謀論も好きなはずだ。

 アメリカ政府は宇宙人の存在を隠しているとか、

 9.11テロはアメリカの陰謀だとか、

 世界を動かすのはロスチャイルドだとか(イーロン・マスクジェフ・ベゾスではないらしい)、

 そういう話を信じる人とかなり重なっているはずである。

(そうなると、最近のアメリカのアフガン撤退はどういう風に解釈すべきなのだろうか……)


 陰謀論ファンは、世界の一大勢力となった。

 21世紀は理知の時代ではなく、人間の「好み」の動かす時代となりつつある。

 それはつまり、情報オナニストが輝く時代ということだろうか。