プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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感動の「バンゲリングベイ」攻略本アオリ文-現代格闘技にも影響した「名作」ゲーム

 ハドソンが1985年に発売したファミコンシューティングゲームバンゲリングベイ』は、この21世紀になってもまだちょくちょくネット記事に採り上げられる「名作」である。

 つい先日もそんなネット記事を見つけたので、この記事を書く気になった。

(⇒ ふたまん 2021年2月21日記事:ファミコン『バンゲリングベイ』当時は理解不能だった有名作を36年ぶりにリベンジ!)

 私は実際、子どもの頃にこのゲームを買って遊んでいた。

 だが、その期間はごく短かったと言わなければならない……

 あれは衆目の一致するとおり、言っちゃ悪いが、やってて面白くないゲームだったのである。


 しかし私は、それでもこのゲームがいつまでも記憶に残っている。

 そしてまた、「名作」だとも思う。

 その理由はゲーム自体にあるのではなく、「攻略本」の方にある。


 私の手元には、『ケイブンシャの大百科別冊』としての、

 『ファミリーコンピュータゲーム必勝法シリーズ3 バンゲリングベイ

 という攻略本がまだある。

 それを捨てたり売ったりする気にはならない。

 なぜなら、その本の初めの方――ゲーム世界を解説する(今で言う)「アオリ文」が、あまりに素晴らしいからである。
 
 皆さんももし古本屋でこの攻略本を見つけたら、ぜひ買っておくことをお勧めする。

 そのアオリ文は、もしこの世に「ゲーム攻略本文学大賞」というのがあったとしたら、無条件で受賞してほしいほど感動的なのだ。

 そうは言っても古本屋で見つけることは極めて難しいだろうから、ここにクライマックスシーンだけを抜き書きしておく。

 その前に基礎知識として、バンゲリングベイというゲームのプレイ目的は、

「演習中のアメリカ空母ロナルド・レーガンが、地球侵略を狙うバンゲリング帝国によって無限ループ海域(バンゲリング界)に閉じ込められる。

 そしてわずかに残った攻撃ヘリだけで、海域内の(地球の兵器を改造した)バンゲリング軍と戦う。

 兵器製造工場を破壊していき、

 敵の手に落ちて改造されたQ型戦艦も撃破しなければならない」

 というものである。

 では、アオリ文のクライマックス、「バンゲリング帝国から空母へ降伏勧告がなされた」シーン以降の引用を。


***********

 帝国からのメッセージが終わり、沈黙していたハーディ提督が口をひらいた。

 この老提督の顔は悲痛に満ちていた。

 捕われたQ型戦艦の秘密を知る提督にとって、勝ち目は万にひとつもなかった。

 だが、ここで戦艦の改装や無限増殖を許せば、世界があっという間に制圧されることも事実だった。

「諸君! 戦おう」

 提督の声は、スピーカーで空母レーガン将兵すべてに伝えられた。

 もはや、勝利をあきらめていた乗組員だったが、この海軍きっての“鉄の男”の演説は、再び彼らを立ち上がらせるのに十分なくらい勇気と希望と幸福に満ちていた。


 今、ここで彼らに降伏したら反撃のチャンスはゼロである。
 
 といって戦っても勝ち目はないだろう。

 しかし、たとえ小さくとも敵に被害を与えられるかもしれない。

 彼らの世界侵略開始までの時間を少しでものばせるかもしれない。

 そしてQ型戦艦を運よく破壊できるかもしれない。

 たとえ、これらすべてが失敗に終わっても、この最新空母レーガンを敵に渡すことだけは避けられるだろう。

 アメリカ第2艦隊最後の空母レーガン

 今、このバンゲリング界で、艦隊の敗北する時は、レーガンの沈む時だった。

「諸君! 名誉のために戦おう。そして勝とう!!」 

 ハーディ提督の最後のことばが終わった時、艦内は熱気と興奮に包まれていた。

 全将兵は、自信をとり戻し、合衆国への忠誠のため戦うことを決意した。

 空母に残された艦載機は、わずかに新型ヘリが5機。

 だが、意欲に燃えた隊員にとっては十分であった。

 彼らは、たとえ残された武器が弓矢ひとつ、オノひとつであっても戦う意志をなくしたりはしなかっただろう。

***********


 いかがだろうか。

 まさに「懦夫をも立たしむる」名文だとは思われないだろうか。

 少なくとも私はそう思った。

 調べたわけでは全くないが、子どもの頃にこの攻略本を読んで感動した男性は、今でもいっぱいいるのではなかろうか。


 そして、21世紀の現在――

 格闘技ファンには周知のことだが、東京にはキックボクシングジム「バンゲリングベイ」が存在する。

 その運営会社は、「株式会社バンゲリングベイである。

 何ということだろう……

 名作・迷作ゲームは数あれど、そのゲーム名が会社名・ジム名になった例がどれだけあろうか。

 さすがにいくらバンゲリングベイと並ぶ?「名作」ゲームである『たけしの挑戦状』にしても、「株式会社たけしの挑戦状」というのはいつになっても出現しそうにない。


 私はこのジムに行ったこともなければ縁もゆかりもないが、やはり密かに思うのである――

 このジムと会社を作った人は、やはりあの「攻略本アオリ文」を読んで感奮したからこそこの名前を付けたのではないか、と。

 もちろん「バンゲリングベイ」という語感自体が、素晴らしく印象に残るネーミングだということもあるだろうが……

 (これ、なかなか忘れられない名前だと思うのである。)

 
 いずれにせよバンゲリングベイは、ゲーム内容「以外」のところで後世に伝えられ、影響しているゲームの筆頭格ではあるまいか。

 バンゲリングベイは、21世紀になっても死なず。

 バンゲリングベイの名は、22世紀になっても伝えられそうな気配がする。

 そしていつの日か、現代のゲーム機でバンゲリングベイが甦る日を、いつまでも期待している人は多いのではないだろうか……