あると思っていたら、やっぱりあった。
悪質・違法・問題ある企業を指す「ブラック企業」という言葉が黒人差別ではないか、黒人ヘイトに繋がるのではないか、という指摘の登場である。
こういう話を聞いて一般的な日本人が反射的に思い浮かべるのは、「過剰反応」「言葉狩り」という言葉だろう。
ここ最近の「欧米文化大革命」の動きについて、日本にまでそんな動きを持ち込んでくるな、と思っている日本人は、とても多いはずである。
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さて、この「ブラック=悪=黒人」の連想環ができてしまうからブラック企業という言い方は止めろ、という声に対し――
これまでブラック企業という言い方を使ってきた人たちは、上記引用記事でこう述べている。
●「日本の『黒』『ブラック』という言葉には、黒人差別的な社会的・政治的文脈はない。
それに『腹黒い』などの(黒を否定的に使う)日本語も全て変更しないと一貫性がない」
(「ブラック企業大賞」実行委員・河添誠 氏)
●「差別の議論の仕方として複雑で、簡単に一言ではコメントできない」
(『ブラック企業』著者、新語・流行語大賞受賞者、NPO「POSSE」代表・今野晴貴 氏)
正直、今野氏のコメントは、普通なら「歯切れが悪い」と受け取られる回答である。
また河添氏は、「黒を否定的に使う日本語も全て変更しないと一貫性がない」としている。
しかしこれは、効果的な反論であろうか。
まさしく今、黒を否定的に使う日本語が全て変更される――いや、使われなくなる日が、いよいよ到来したのではないか。
おそらくこれから放送業界・出版業界で、「黒」のそういう使い方はほとんど廃絶されていくはずだ。
もちろん「放送禁止用語」は放送業界が勝手に内輪で決めただけのものであるが、
しかしそれが、日本の世間では一般道徳になってしまっている、という前例が既にある。
テレビ・ラジオや出版界で「使ってはいけない言葉」に設定されてしまえば、それは簡単かつ迅速に一般道徳になることだろう。
おそらく今、今回のニュースに接した多くの人が、
「じゃあ、『黒白(こくびゃく)を付ける』『白黒(しろくろ)ハッキリ付ける』という言い方もダメなのか?」
と言いたいことだろう。
それが「反論」になっている、とストレートに思っている人も多いだろう。
しかし、そのとおり――
これからは「黒白を付ける」も「白黒ハッキリ付ける」も「腹黒い」も、使ってはいけない言葉になるのである。
そういうことを著者が原稿に書けば、編集段階で直される時代が来るのである。
「黒白を付ける」のは「コントラストをハッキリさせる、互いの立場をハッキリさせる」という意味だから、別に黒が悪いという意味はない……
そういう解釈もできなくはないが、しかしやはり曲解というものだろう。
もちろんこの言葉は、「白=正しい=勝つべき立場」「黒=悪い=負けるべき立場」と解されているに決まっているからである。
ではちょっと、この「黒・ブラック」という文字の含まれる言葉がこれからどうなるか、チェックしてみよう。
●「黒いカリスマ」
プロレスラー蝶野正洋のニックネームである。
蝶野自身、「オレ、ボランティアしても『黒いボランティア』なんて言われるんだよ」と苦笑していた、なんて記事を読んだ記憶がある。
これはもちろん、「黒=悪」の連想環に該当する。
しかし蝶野の場合、本当に黒いファッションをしているから黒のカリスマと呼ばれるという面もあるので、まずはセーフというところか。
さすがにいくら欧米文化大革命とはいえ、「黒人以外が黒の服を着ることもけしからん」とまではなりそうもない、気がする……
●「暗黒の支配者」「暗黒時代」
まさに「黒=悪」のイメージである。
おそらくこれは今後、「闇の支配者」「暗い時代・暗夜時代」と言い換えられるのではなかろうか。
●「ブラック●●デー」
ブラックマンデーとかブラックサンデーとか、主に株が大暴落した日を表す。
これは元々が英語なので、これからは使われないはずである。
●「黒魔術」「黒魔道師」
ファンタジー世界ではお馴染みの名称であるが、これもまさに正義善行の「白魔術」「白魔道師」と対をなす、「黒=悪」そのまんまである。
これの言い換えはなかなか難しいが、「正魔術」「暗魔術」などと表記されるのではなかろうか。
こういうことを書き連ねていくとキリがないので止めるが、
たぶん今後は、今まで「ブラック」としていたのを「ダーク」と言い換えることになるだろうと思われる。
つまり、ブラック企業はダーク企業になる。
あるいはダーティー企業となる。
(どうしても英語で言いたければ、だが)
もしかすると、「ブラックホール」は「ダークホール」になるかもしれない。(あるいは「吸引ホール」か)
しかしその中で残りそうなのは、「漆黒(しっこく)」という言葉である。
これは日本では、なにやらカッコいい=良い響きを持つからである。
これからの時代、黒系の言葉の検閲を堂々とくぐり抜けられるのは「漆黒」と「ダーク」ではあるまいか、と予想しておく。