9月19日、アメリカのトランプ大統領は国連で初の演説を行った。
その内容は、まさにトランプ節全開のものであったらしい。
特に日本にとって大きいのは、「日本の13歳の少女が自国の海岸から誘拐され、北朝鮮スパイに語学を教えることを強いられた」と、北朝鮮による横田めぐみさんら日本人誘拐拉致事件に明確に触れたことである。
これについては、別にトランプは本心から日本人拉致事件に怒り同情を寄せているというのではなく、ただ手近に北朝鮮を非難する材料があったから言ってみただけに過ぎない――
という見方もあろう。
しかし本心がどうとか言い出したら、キリがない。
そういう見方をするべきだというのなら、あの昨年のオバマ大統領の広島訪問演説も同じ見方をしなくてはなるまい。
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あれは“歴史的な演説”として人気と評判を集めたものだが、実はオバマは「本心では核兵器廃絶ができるなんて思ってもいなかった、しようともしたいとも思っていなかった」と解釈すべきなのだろうか。
しかし今回のトランプ演説に比べれば、オバマ演説は歴史的どころか、単に追悼式へ行ってクソの役にも立たないポエムを詠んできたに過ぎない――という見方だってできるだろう。
なんたってトランプは北朝鮮のことを「邪悪な国家」「こんな犯罪者集団」と、その指導者・金正恩のことを「ロケットマン」と呼び――
ロケットマンは自殺任務に向かって突っ走っている、もし戦争にでもなったら「北朝鮮を完全に壊滅させるしかなくなる」とまで言っている。
そりゃあもう、その場にいた北朝鮮大使は“抗議の退席”するしかないというものである。
(この人、「なんで一言も反論せずに出て行った!」と金正恩に処刑されなければいいが……)
さらにトランプの矛先はシリア、イラン、ベネズエラの3国にも向き、
シリア(のアサド政権)については「罪なき子どもたちも含めた自国民に対して化学兵器を使用するといった、犯罪者アサド軍の行為」と言い、
イランに対しては「民主主義のフリをした、腐敗した独裁体制」「その主な輸出品は、暴力と流血、混乱だ」と言い、併せて前任のオバマ大統領が欧州諸国らと結んだイラン核合意については、「米国が結んだ中で最悪で一方的な合意の一つ」と述べ、
ベネズエラについては「腐敗した社会主義独裁国家」なのでアメリカは行動に出る用意もある、と列挙した。
いやはや痛快というか何というか、ここ何十年のアメリカ大統領からは聞けなかった言葉の連発である。
イラン・イラク・北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだブッシュ・シニア大統領など、これに比べれば実に内気で穏健に見えるではないか。
前任のオバマ大統領とは180度違う個性だが、こういう人こそ大統領に当選するのが今のアメリカ人の“雰囲気”なのだろう。
つまりアメリカ人の半分くらいは、良識的で思慮深そうな「知的エリート」に心底飽きたか反発しているのだと思われる。
もちろんイランのザリフ外相は「トランプの無知なヘイトスピーチは、(国連ではなく)中世にこそふさわしい」とか、
ベネズエラのアレアザ外相は「トランプは世界の大統領ではない……(中略)……自分自身の政府すらきちんと管理できていないのに」とか批判している。(当たり前だ)
また、演説を聞いていた加盟国の代表の一人は両手で顔を覆い、スウェーデンのワルストローム外相は「あの場所であの時に、あの聴衆を前に、あのような演説をすべきではなかった」と批判したそうだ。
私は別にトランプの支持者というわけではないが、イランの方がよっぽど中世に近いのは確かだと思うし、ベネズエラは政府どころか「国民を独裁で管理」しようとしているからこそ「ろくでもない国」とみなされているのではないか?
(余談ながら、自分の悪口を言われたら「ヘイトスピーチ」と切り返すのは、日本だけではないようである。)
たぶんスウェーデンのワルストローム氏は学歴高く教養高い紳士なのだろうが、そういう人こそ、ならず者に対して何もできない腰抜けだと民衆に思われているのである。
(そして実際、紳士たる国際社会があくまで続けるべきとされている“対話”は、ならず者に対してほとんど効果がなかったように思われる……)
さてこれからのトランプに期待したいのは、こういう舌鋒をいよいよ「あの」サウジアラビアに向けることである。
サウジアラビアといえばサウド王家の独裁国家で、女性の地位や立場がものすごく低いことで有名だ。
しかしそれなのに(そんな国にこそボロクソ言って対決すべき)アメリカは、ずっとずっとサウジと仲良くしようとやってきたのである。
もうこうなったら地政学的理由などうっちゃって、トランプには――
サウジアラビア、「いまだ女性にクリトリス切除の割礼を施している民族」、駆け落ちした男女を処刑する部族、同性愛者をリンチにする“宗教マン”、それらを容認する各国政府らを、名指しでクソミソに言ってほしいものである。
そうなればトランプは、(本当に良い意味で)ホンモノの男である。