日本テレビ系NNNの報道によると、2月13日にクアラルンプール国際空港で金正男を殺害した女2人組の一人、シティ・アイシャ容疑者(25歳、インドネシア国籍)は――
先月(1月)に実家に戻った際、義理の姉ら家族に「日本で撮影するテレビ番組撮影のため、お金持ちの男性にソースをかけるよう、日本人の男に依頼された」と話していたらしい。
そしてまた、
●「相手のほおを両手で触ったり、腕をつついたり、ソースをかけたりするイタズラをする」
●「(男からは)高い金を払っているのだから、放送される番組を見ようとするなと言われた」
●すでに先月(12月?)、インドネシアのショッピングモールでもイタズラをする撮影をした。(日本円で)8,500円を受け取った」
とも話したという。
なお既報のとおり、もう一人のドアン・ティ・フォン容疑者(28歳、ベトナム人)は、母国で自称“ネットアイドル”だったらしい。(しかしいろいろ記事を読む限り、ただYouTubeで自撮りしているだけのようだが……)
ちなみにこの2人、画像を見るとけっこう可愛い顔をしている。
アイドルやアイドル志望者だったと言われても、まずまず信じられるように思える。
さて、逮捕されたドアン・ティ・フォンが当初「イタズラ目的でやった。暗殺などと思ってなかった」と供述していたことを聞いて、大多数の人は「なんてバカバカしいウソなんだ」と思ったはずである。
彼女とシティ・アイシャは、北朝鮮の女工作員――もしくは北朝鮮に暗殺目的で雇われたに決まってるだろうと思ったはずである。
そうでなければ金正男の顔に(VXガスの)スプレーを吹きかけ、もう一人が布で顔を覆い、そしてタクシーで手際よく現場から逃亡するなんて芸当ができるわけがない……
しかしどうやら彼女らは、本当にイタズラ目的と思い込んで「暗殺を実行」した可能性が濃くなってきた。
みなさんも、もし彼女らの供述が本当で、日本で言う「ドッキリカメラ」の撮影と思い込んで実行したのが事実だとすれば――
もちろん、本番前のリハーサルを何度かやっていたに違いないと感じたことだろう。
それは技術向上を図るトレーニングというわけではなく、彼女らに「ああ、今回も同じことをするんだ」と思わせ・慣れさせるために必要なのだ。
少なくともNNNの報道では、それが実際に行われていたことを示している。
クアラルンプール国際空港での本番においても、「タクシーで素早く逃亡する」までが撮影だと言い含めておいたことだろう。
これなら北朝鮮人が直接手を下すこともないし、彼女らが捕まったとしても(実際、速やかに捕まったのだが)別にそんなに問題はないわけだ。
しかし一方、それでも彼女たちだけを空港に向かわせ、彼女たちだけに実行させるわけにはいかない。
実行直前まで北朝鮮工作員が最低1人は彼女らと一緒におり、ターゲットを示し(ビデオカメラも持って)撮影するフリをしなければならない。
そして金正男が並んでいた空港の自動搭乗受付コーナーには警備員はいないのかもしれないが、むろん監視カメラは空港中にゴマンとある。(ドアンと「親密そうに話していた黒い服の男」がカメラに写っていたらしいが、それが本物の工作員だろう。)
また、警備員はいなくても他の乗客たちに「何やってんだ!」と取り押さえられる危険もある。
何より、こんな重要な暗殺をネットアイドルだのユーチューバーだのという素人の小娘2人にやらせること自体が、暗殺計画者にとってはものすごいリスクに感じられるに違いない。
こともあろうに、マレーシアでも人混みの最も多そうな国際空港でこんな暗殺を実行する――
これはもう「暗殺」ではなく「明殺」である。
よく北朝鮮内部でGOサインが出たなぁと思うような大胆不敵でリスキーな計画だと思うが、しかし暗殺には成功した。
もしこの「ドッキリカメラ」説が真実なら、金正男は「100ドルで雇われた」――
「LOL」(Laughing Out Loud=“大声で爆笑する”の略語。私はこれを外国での絵文字の一つだと思っていた。世の中知らないことばかりである)の服を着たベトナムの「ネットアイドル」と、
インドネシアのイタズラ娘に、よってたかってVXガスを浴びせられ殺されたことになる。
(そしてさすがに殺害道具諸説のうち、「毒針を刺した」説は消えるのではなかろうか――
イタズラ目的と思い込むには、スプレーが限度だろうから。)
世紀末的と言うのも当たらないというか、何とも奇抜で珍妙な、腐敗堕落した資本主義社会を揶揄するかのような暗殺方法である。
強盗殺人を装って殺す方が、はるかに簡単で迷宮入りしやすそうに思えはするが――
これを北朝鮮の大胆さ・意志の固さ・巧妙さと見るか、それとも「こんな方法を使うまで焦って追い詰められている」と見るか、なかなか判断の付けがたいところである。