プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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国有地9割引売却問題と「安倍晋三記念小学校」その1

 近畿財務局の管理する大阪府豊中市の国有地(8,770㎡)は、不動産鑑定士により更地価格9億5,600万円と評価されていたが、昨年6月に学校法人「森友学園」(大阪市)に1億3,400万円で売却された。

 約86%減、ざっくり言えば9割引のプライスダウン――

 しかもメチャクチャ低い額を設定して競争入札にかけたら結果的にこうなったというのではなく、公共随意契約(公共的団体の故をもって、競争入札でなくその団体と随意で=その団体だけを対象に契約すること)によるものだ。

 なぜこんなにプライスダウンしたかというと、

●地下の廃材や生活ゴミの撤去・処理費用(8億1,900万円)

●その撤去により事業が長期化する損失(300万円)

 の合計8億2,200万円を差し引いたからで、当然ながら財務局(財務省)は「この価格は適正だった」と言っている。


 国有地に限らないことだが、とかく土地に関することにはドス黒い話/胡乱な話がつきまとう。

 本件もその一端に連なるものだが、ここでちょっと考えてみよう。

 まず売買価額が評価額の9割引になることについてだが、これにはまっとうな理由が付けられないわけではない。

 市街地のど真ん中にある広い土地は、確かに更地としての評価額は高いに決まっている。

 しかしその上に、大きな建物が建っているときは話が別だ。(国有地なら、警察や自衛隊の官舎などがそれに当たることが多い。)

 特に旧耐震基準(1981年=昭和56年)以前の古い建物である場合は、ほぼ当然にその解体費を差し引いて値段設定するのが普通だろう。

 土地の「更地評価額」が10億円であったとしても、大きな建物の解体費が4億円かかりそう(こういうことも当然あり得る。PCB(ポリ塩化ビフェニル)-かつてコンデンサーなどの電気器具に多く使われた-などが大量に含まれていれば、なおさらである)なら、じゃあ売買価額は6億円にしようということになる。

 これは、多くの人には納得できる考え方だろう――

 もし「いやいや解体費は差し引かない、あくまで更地価格で売る」と言い張るようなら、「そんなんで売れるわけないだろ」と誰もがツッコむはずである。

 しかし一方、その土地を4割引で買った人は、その建物を取り壊さなくてもいいわけだ。

 旧耐震の建物を(付き合いのある業者に頼んで)安く耐震改修して使うとすれば、その安く上がった分はまるきり得をしたことになる。

 いや、解体するにしても、何らかの手法で売り手側の見積もりより安くできることは大いにあり得る。

 同じように、地下に廃棄物が埋まっているとすれば、その撤去費用(の見積額)を差し引いて売買価額の値段設定することはむしろよくあることである。

 ただ問題は、その撤去費用の見積もりなるものが、いかようにも見積もれることだろう。


 建物の解体費となれば、それは比較的簡単に算出できる。

 しかし地下埋設物の撤去費となると、これは往々にして底なし沼の皮算用にならざるを得ない。

 掘れば掘るほどどこまで物が埋まっているかわからず、まさにブラックボックスであるからだ。

 よって見積額は、いかようにも高くすることができる。

 これは何を意味しているかというと、とにかく安く売りたい側――

 または安く売るよう圧力をかけられている側は、「地下埋設物の撤去費」を差し引くことに頼る、ということである。

 特に本件の場合はめぼしい地上構造物はないのだから、差し引くとすればこれしかない。

 そしてもっと言うと、土地を売る側が撤去費を見積もる業者に、「これくらい高く見積もってくれ」とあらかじめ頼んでおくことだって考えられる。

 
 なんでも本件土地はもともと伊丹空港の騒音対策区域で、国土交通省大阪航空局が土地を買い進めてきたとのこと。

 しかし航空機の性能が上がって騒音が少なくなったため1089年に区域解除され、区画整理が進むことによってこのような広い土地が生まれたらしい。

 地下ゴミの撤去費が約8億円であると試算したのは、その大阪航空局だとされている。

(建設用の杭が打ち込まれる最深9.9mまでゴミが埋まっていると想定。8億円のうち4億円は、それを産業廃棄物として処理するための費用としたらしい。)

 しかしもちろん、この想定自体がどうにでも設定できることは否めない。

 広さ8,770㎡の土地はおおよそ縦93m×横93mの土地と換算できるから――

 深さ9.9m×縦93m×横93m=約8万5,625㎥ の体積の土を掘り返し、ゴミを撤去し、埋め戻すというのが、最大限の想定である。

 よって1㎥あたりの処理費は、8億1,900万円÷8万5,600㎥=約9,600円。

 私にはこの額が高いか低いか判断できないが、これだけ見れば意外と妥当なのかもしれない。


 ただ問題は、この土地のすぐ東隣の国有地(9,492㎡)も、地方自治体に対する公共随意契約豊中市に売却されていることだ。

 その価格は約14億2,300万円=㎡単価15万円。(今は公園として整備されている。)

 これにはたぶん、ゴミの撤去費用の差し引きはなかったろう。

(本件報道で一番怒っているのは、豊中市ではないかと思われる。今後の財務局との付き合いを考え直さないではいられないだろう。)


 そしてまた2011年には、この土地について別の学校法人が財務局に取得希望を伝えていたのだが、2012年に国土交通省から「地下に大量の埋設物がある」と言われ、ゼネコンに見積もりを頼んだ。

 すると撤去費は約2億5,000万円と出たので、購入希望額を7~8億円から約5億8,000万円に下げたのだが、財務局から安すぎると言われ取得を断念したという。

 しかしこれですら、理由は付けられる――

 「後になって、さらに大量の埋設物があるとわかったのです」と言えばいいのだし、現に財務局はそう言っている。

 土地の値段って、かくも自由自在に変えられる、いい加減と言えばいい加減な側面が確かにある。

 よって、ドス黒い/胡乱な影響なり圧力を受けてしまえば、比較的簡単に安くすることができるのである。