12月25日、埼玉県飯能市美杉台の高級?住宅街の自宅で、アメリカ国籍の男性とその妻・娘の3人が、ごく近所(60m程度の距離)に住む40歳の男にオノ又はハンマーで殺害された。
全員、顔の見分けも付かないほど激しく叩かれての惨殺であった。
そして彼、1年前から(何の恨みがあるのかわからないが)この家族の車に傷をつけたり家に投石したりし、3回も逮捕されているのに不起訴になっていたらしい。
もっとも、この家族の弁護士からは「今いる家から出て行ってほしい(遠くに行ってほしい)」との書類を渡されていたらしく、おそらくこれが殺害への引き金になったのだろう。
(⇒ 毎日新聞 2022年12月26日記事:おのを使って殺害か 複数の刃物や鈍器押収 埼玉・飯能3人殺害)
何でもこの40歳の男、少年時代は快活でサッカーもするスポーツマンで、「女子に憧れられる」存在ですらあったらしい。
しかしそんな前歴が将来を保証するものでないこと、かくのごとし。
親ガチャあれば子ガチャありというか、彼の父親は(20年以上、一度も会っていないらしいが)気の毒の一言である。
こんなハズレくじの子どもを引き当てたのは不運の極み、しかもこの悲劇はどの親にでも起こりえるのだから恐ろしい。
ところで、この事件の教えるところだが――
顕著なのは、「被害者の車に傷をつける」「被害者の自宅に投石する」というのが、殺人事件発生への明白な兆候であることが立証されたことだろう。
ましてやそれに逮捕・訴訟で対応するのは、火に油を注ぐ結果になるとわかったことだろう。
この男が不起訴になったことでわかるように、これらは「微罪」である。
たとえ実刑でもせいぜい罰金か懲役1年がいいところであり、依然としてその土地から離れないことができる。
これが被害者と地域社会への恐るべき脅威であるのは言うまでもなく、いよいよ社会はこれへの対策を考えなくてはならない段階にある。
昔は「江戸から所払い」という追放刑があったのだが、しかし交通が四通八達する現在、そんなことをしても恨みさえあれば簡単に被害者を狙うことができる。
また、彼が(ほぼ100%男であるのに決まっているので「彼」と呼ぶ)いなくなった後の空き家を、誰が買うのかという問題もある。
そんなのを買って自宅にしたい人はほぼいないだろうし、貸家にするにもリスクがあまりに高すぎる。
今度はその家に住む人が恨まれるのは、火を見るよりも明らかだ。
そして、むろんそうだからと言って、車を傷つけられたからすぐ引っ越しを実行する、なんてわけにはいかないのである。
つまりこれは「ヘンな奴リスク」の最たるもので、いったん変な奴に目を付けられたら――自分は何もしていないのに一方的に攻撃対象にされてしまったら――、警察が出てこようとどうだろうと、有効な対応策はないということになる。
もちろん、「地元の犯罪者データベース」を誰かが作っておき、それを地域で共有して警戒しておく……
というのは、誰かがやろうと思いさえすれば可能ではある。
しかしそれでも、じゃあ「こいつだとわかっている前科者」が突発的に殺人に走るのを、四六時中抑止できるわけではない。
(⇒ 2015年3月12日記事:異常ツイート殺人事件と犯罪者データベースの構築 その1)
おそらく、この「狂人無罪」に対する「狂人防犯」として最も有効で現実的なのは、微罪であっても逮捕して予防拘禁することだろう。
できれば一生、拘禁施設から出さないことだろう。
しかしそれですら現実になる可能性がほぼないのは、誰でも知っている。
今の社会は、狂人に対して無防備である。
あなたが狂人のターゲットになるかならないかは、運次第と言っても過言ではない。
あなたはたまたま今、狂人に目を付けられていないだけだ。
しかし不思議なのは、これだけ精神疾患により刑を科されないという「狂人無罪」に対する国民的反発が強く、狂人の脅威を国民はかなり身近に感じているはずなのに――
「狂人防犯」を論じる政治家や言論人らが、誰もいないことだろう。
ただそれは、どうせ論じても有効な解決策は見つけられないから手を出さない、ということであれば理解はできる。
それでも狂人防犯は現代の喫緊の課題で、今から当選したい政治家にとってはかなり豊かなフロンティアでありブルーオーシャンだとも思えるのだが……