西武池袋本店の改装について、その1階にヨドバシカメラが入居する方針となった。
これに対して12月5日、豊島区長は異例にもそれに反対し「断固やめてくれ」との嘆願書を㈱西武ホールディングス社長あてに発出した。
そんなことになったら今までの顧客も富裕層も離れ、文化の街としての基盤が喪失してしまうからだという。
(⇒ プレジデントオンライン 2022年12月20日記事:ヨドバシが嫌なら、自分でカネを出すべき…せっかくの民間投資を遠ざける「区長の嘆願書」という大問題)
私が反射的に思ったのは、豊島区長はなかなか骨がある、ということである。
「わが街にヨドバシカメラが来る」という話になれば、むしろ大歓迎し、思い切りヘコヘコしての誘致にさえこれ努める自治体首長の方が、圧倒的多数ではないかと思うのだ。
しかしもう一つ反射的に思うのは、これはヨドバシカメラに対しての侮辱でありヘイトではないかということである。
なにせ、ヨドバシカメラが入居したら、文化の基盤が失われるというのである。文化的じゃないというのである。
これって、普通に名誉棄損に近いのじゃないかと思うのだが……
そしてこれに関連して思うのが、では入居するのがヨドバシカメラじゃなかったらどうなのか、という点についてだ。
もし、IKEAだったらどうか。豊島区長は反対嘆願書を出したか。たぶん出さないだろう。
では、ドン・キホーテだったらどうか。
紀伊國屋書店だったらどうか。
ワークマンショップだったらどうか。
アニメイトだったらどうか。
どんな店が入居したら反対嘆願し、どんな店だったらしないのか。
いったいどんな店が、文化的じゃないと判断されるのか、感じられるのか。
もちろん私は、自治体首長が民間企業に対し、どこにどんな店が出店するかについて嘆願・要望・圧力掛けすることは、基本的には的外れだと思っている。
(米ファンドに買収された)西武ホールディングスが池袋本店にヨドバシカメラを入居させることを考えているというのは、むろんそれが良案だと判断したからだ。
それについて政治家や役所が口を挟むことは、基本的にはできないはずである。
海外の高名なブランド店の入居を斡旋するというなら(これは「口利き」になるかもしれないが)話は別として、そうでないなら――
池袋駅前というエリアは、民間企業にとってヨドバシカメラの立地がベストであると判断されたことになる。
そう、判断するのは区長とか地元地域とか「文化の街というイメージ」の側ではなく、逆にそれらは「判断される」方である。
今回入居が検討されているのが海外ブランド店じゃなくヨドバシカメラだというのは、それが池袋駅前という地域にとっての「自然な流れ」だからだろう。
そういう自然の流れに抗うというのは、一般的には良策ではない。
海外ブランド店が立地した方がいいと民間企業が判断するなら、何もしなくても勝手にそういう流れになる。
そうならないのは結局は、今の池袋駅前がそういう流れに適していないということだろう。
人が「そうあってほしい」と願うイメージと現実の実態とは、しばしば一致しないものである。