イグ・ノーベル賞に限らず、真面目にやっているのに笑ってしまうような、面白い研究というのが世の中にはある。
そしてまた一つ面白い研究が、面白いどころか爆笑ものの研究があった。
それが堀内勇作氏らによる「日本の有権者は、諸政党の政策をどう評価して投票しているか」という研究である。
(⇒ JBpress 2022年7月29日記事:「統治崩壊」でも勝つ不思議、なぜ日本人は自民党に票を入れ続けるのか?)
この研究によると、何と自民党の政策は最低レベルの評価を受けている。
対して共産党はかなり評価が高い。
にもかかわらず実際の選挙ではいつも自民党が勝っている。
つい最近の参院選でも「自民圧勝」だったことは記憶に新しい。
そして、ここが爆笑ポイントなのだが――
デタラメに作った政策を「これは自民党の政策」として提示すると、どの分野のどんな政策でも大幅に支持が増えたというのだ。
何と何と、「日米安全保障条約を廃止する」という政策ですらそうだったという。
これを、爆笑せずにいられようか――(笑)
もっともこの研究は、みんなわかっていることを裏付けしただけだとも言える。
みんな、わかっているのである――
圧倒的大多数の日本人投票者は、各党の政策を比較検討して選挙へ行っているのではないと。
そんなことする人間はむしろ変人であると。
特に自民党については、自民党であるというだけで投票する人が大勢いることを。
これはまるで、中国共産党でさえ羨ましく思うほどの「自民党権威主義国家」である。
「何があっても自民党、何をやっても自民党」というのが、多くの日本人の自発的なスタンダードな姿なのだろう。
しかし、自民党がどうだというのとは全く別に――
この研究は、二つのことを示しているように思う。
一つは、苦労してシンクタンクみたいなものまで作って研究を重ねて政策を練り上げたとしても、そんなことは全く無意味だということである。
有権者のほとんどは政策なんか見ないし参考にもしないのだから、これは当然のことだ。
端的に言って、政策づくりには意味がない。
選挙に勝ちたいなら自民党に属するのが最良であって、独自の政策なんか持つのはむしろ有害である。
もう一つは、なぜそんなにも有権者は政策を見ないのか、という問題。
これは、「長文は罪」という意識の浸透も関係あると思われる。
tairanaritoshi-2.hatenablog.com
いまや長文は罪悪であって、職場研修でも文章の書き方講座でもSNSテクニックでも、あらゆる場面で文章は短いことが求められる。
これは「短文道徳」である。
しかしもちろん、ちょっとでも真面目に政策を考えようとすれば、必然的にある程度の長文になる。
もう、この時点でダメなのだ。
現代の有権者は、長文を目にした時点でダメ判定する。
長文は、不道徳と無能力の証だからである。
と言うよりも、実際はこんなところかもしれない――
「このオレにアタシに政策なんか考えさせるのは無礼、配慮がない」
「考えさせること自体がウザい」
というような。
要するにもう、「何が言われているか」は有権者にとって重要ではない。
重要なのは「誰が言っているか」ということである。
これがまさに権威主義の真髄なのだが、もはやその権威主義が日本のトレンドであり正義であり、正しい道徳ということになっている。
中国共産党というのは自分自身でそういう風に国民を持って行こうとしているのかもしれないが、
日本では別に自民党ではなく、国民自身が自然発生的にそういう風に持ってきている――
という意味で、これは「草の根権威主義」と言えるのではなかろうか。