6月19日、日本におけるエンターテインメント企業の雄、エイベックスの松浦勝人(57歳)会長は――
そのYouTube生配信で、女性タレント約20人について「ブス」「ババア」だのという蔑視発言を約6分間行った。
(なかなか驚異的なスピードである。)
(⇒ デイリー新潮 2022年6月22日記事:エイベックス松浦会長がYouTubeで「深田恭子」「北川景子」を中傷 聞くに堪えない暴言の中身とは)
この件についてデイリー新潮編集部はエイベックスに質問状を送ったが回答はなく、その代わり当該動画は非公開になったそうである。
本題に入る前に書くと、この「質問に対して回答なし」というのは、こういうニュースで実に頻繁に我々は目にする。
これが役所や公的機関であれば、こんなことは許されないと思うのだが――
この点、民間企業というのは実にラクなもんである。(笑)
本題に戻ると、言うまでもなくこの松浦会長の発言はホンネである。
本当にこう思っているからこそ(間違いなく世に広まるとわかっているのに)こんなことを言うのである。
むろん普通の人間はこんなことを思っていても、人前で口には出さないが……
そこは資産数十億と言われる富強ぶり、何よりエイベックス王国・エンタメ王国の王様であり大領主であるという支配者ぶりが、こんなことを生配信で言わせるに違いない。
つまりこれは、人間・松浦会長の素の姿である。
言い換えると、ただの人間のナマ姿である。
当たり前のことながら、全ての人間はただの人間だ。
しかし現代は過去のどの時代にも増して――と言いたくなるくらい――、「スゴい人」賛美が盛んなのである。
もうそれは、スゴい人を称賛しなければ人間ではない、というくらいの道徳にまでなっている。
(おそらくその最大級の一人は、故スティーブ・ジョブズである。
この極東の日本でさえ「神のごときスティーブ・ジョブズ」と思えるくらい、賛美・賞賛・憧憬されているのはご存じのとおり。)
松浦会長もまた、スゴい人の一人である。
エイベックスがここまでエンタメ業界の大勢力にのし上がったのは、挙げてこの人の功績とされている。
(と言っても、私はよく知らないのだが……)
しかし私は別に、金銭面や戦争面、芸術面やスポーツ面の成功者・大成功者が、賞賛されるべきとは思わない。
彼ら彼女らにスゴい能力(と、スゴい運)があることを否定する必要もないが、だから賞賛すべきという義務は生じない。
他のカエルより遠くまで飛べるカエルはスゴいのだろうが、そこに賞賛なんて要素が入る余地はないだろう。
何か飛び抜けた能力を持つ人が生まれてくるのは当たり前のことであり、単なる自然現象である。
能力のある人は勝手に活躍すればよいのであって、実際にする。これも単なる自然現象の一環である。
だいたいこんなことをいちいち賞賛していれば、ヒトラーだって「(特に演説能力が)スゴい人」には違いなかったのだから、賞賛しないのは不道徳になるはずだ。
ずば抜けた能力を持って生まれてくるのは、単なる偶然である。
その人がそんな能力を持って生まれてこなかったら、他の人が持って生まれただけである。
そして当然のことながら、ずば抜けた特定能力と善良な人柄とは、何の連関性もない。
能力だの功績だので人を称賛するのは、実にアホらしいことである。
私としては、松浦会長が女性タレントを侮辱しまくるのを糾弾するのも、半ばアホらしいことだと思う。
彼は心底そう思っているのであり、「思う」ことは誰にも止められない。
これもまた「内心の自由」の一環だろう。
しかしせめて、能力があるから成功したから(その証拠として金持ちだという事実があるから)その人を称賛する、というさらなるアホらしさの世界には行きたくない、と思うのである。