プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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メダリストはメダルをかじりすぎた…河村たかし名古屋市長の金メダル噛み事件

 8月4日、東京オリンピックで金メダルを獲得したソフトボール日本代表の後藤希友(20歳。トヨタ所属)選手――

 その彼女が河村たかし名古屋市長を表敬訪問した際、河村市長は「メダルを首にかけさせて」とリクエストしたあげく、メダルにがぶりと噛みついた。

 それによって、たちまち大炎上である。 

 「非常識」「冒涜」それも「前代未聞」の悪質さだとか、もうボコボコである。

 私は河村市長を弁護する気も義理もないが、この事件は起こるべくして起こったものだとは思う。

 ある面では、河村市長は犠牲者みたいなものだとも思う。

 何の犠牲者かと言えば、「文化」の犠牲者である――

 すなわち「メダル噛み文化」というものの。


 世界ではどうか知らないが日本では、明らかにメダル噛み文化というものがある。

 日本の子どもたちに「金メダルを獲った選手のマネをしてみてください」と言ったとする。

 たぶん百パーセント近い子が「メダルを噛む仕草」をするだろう。

 これは大人でも同じで、「メダルを獲った選手」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、その選手がメダルを噛む光景のはずだ。

 これはもう、刷り込みされた文化と言っても過言ではない。

 我々は今までいったい、どれくらい多くのメダル噛みシーンを目にしてきたろう。

 どれくらい多くのメダリストがメダルを噛んできたことだろう。

 これほどそんなシーンが刷り込まれてくれば、それはもう「メダルは噛むもんだ」という意識が確立されても全然不思議ではない。

 ましてや河村市長のような「人前慣れ・テレビ慣れ」している「開けっぴろげ」タイプの人なら――

 そんなおどけたパフォーマンスをするのが普通だろ、くらいには思っても不思議はない。

 そしてそんなタイプの人は世の中に普通に分布しているので、いつかこんなことが起こるのは必然だったと言えると思う。

 
 まあ、そうは言っても……

 メダリストにメダルを自分の首にかけてもらうようリクエストする時点でもう、「自分はそこまでずうずうしくはなれない」と思うような案件ではあるが。

 
 ところでこの件で、もう一つ思うのは――

 日頃ネットでよく言われている「オジサン差別」というのは、やはり日本では圧倒的かつ完全な正義とみなされている、ということだろう。
 
 この件についてネットに書き込まれているコメントには、

 河村たかしというオジサン政治家が金メダルを噛むことで、

 いかに若い女性の大切なものが穢されたか、汚染されたか、悪夢になったか、という糾弾がとても多い。

 それはまるで、ザーメンでもぶっかけたのかと見まがうほどだ。

 こういうことを言うのは非常にベタなことではあるが、もしこれが「若い美人女性」や「イケメン認定されている男性」が噛んだとしたらどうなるのだろう。

 男性アスリートの金メダルを女性が噛んだらどうなるのだろう。

 それでもやっぱり、ケガレで悪夢だと書き込む人の方が多いのだろうか。


 いずれにしても、この事件は世の男性たちへの教訓でもある。

 若い女性の(いや、何歳だろうと女性の)持ち物に触れてはならない。
 
 ましてや噛むなどしてはならない。

 息がかかるのをイメージさせるほど顔の近くに寄せてもならない。

 冗談でそんなフリをすることさえも、汚染であり悪夢と受け取られる危険性は非常に高い。

(だから、倒れた女性を助け上げないとかAEDを使わない、というのも確かに理解できる価値観ではある。)

 
 そんなことしたらケガレであり、ボコボコに叩き殺してもいいというのが、国民の共有する道徳だからである。