8月6日20時半ごろ、小田急小田原線の電車内で牛刀を用いての無差別大量殺人未遂事件が発生した。
犯人は36歳の男で、いちおう自首のような形で逮捕された。
そしてこの事件、死者こそ出なかったものの、日本犯罪史上でエポックメーキング的な大事件ということになるかもしれない。
それは犯人が、日本史上初めて?「女性一般への憎悪と敵対感情」を犯行動機として公然と語った事件だからである。
これはたぶん、日本における「反女性殺人」(フェミサイド)の嚆矢と言えるだろう。
しかしまず、事件の概要――これ自体が「ツッコミどころ」ともなるのだが――を見ておこう。
1 犯行動機
「大学時代にサークル活動で女性から見下され、出会い系サイトで知り合った女性ともうまく行かず、勝ち組の女性を殺したいと考えるようになった」
「最初に刺した(重傷を負った)女子大生は、いわゆる勝ち組の女に見えた」
「ずっと、幸せそうな女性を殺してやろうと考えていた」
「(事件当日の)8月6日午後には食料品店で万引きして女性店員に通報され、殺してやりたいという感情が芽生えた」(しかし、もう一度その店に行ったら閉店していた)
――これが犯行動機である。
万引きして通報されたから殺したくなる、これだけで万人がクズ認定するには充分だろう。
ところで別に茶化す気はないが、電車の中に乗っている女性たちのいったい誰が勝ち組なのか、どうやってわかる(と思う)のだろうか。
私には、特段に勝ち組だったり幸せそうな女性を、電車内で見ることってないのだが。
超能力でもあるのだろうか、自分にはそれを嗅ぎ分ける「力」があると思うのだろうか……
2 人的被害
20歳の女性1名が重傷、女性4名と男性5名が軽傷となり、死亡者はなかった。
牛刀を使って、ここまで思い切ってさえこれである。
本人は「人を殺せなくて悔しい。でも逃げまどう姿を見て満足している」と言っているが、これで満足なんだそうである……
3 サラダ油で火をつけようとする
牛刀を振るった後は車両を移動し、そこにサラダ油を撒いて火をつけようとしたが発火せず。
これはネット民の嘲笑を最も買ったくだりだが、ガソリンどころかせめて灯油ですらないのだ。
もっとも、サラダ「油」なんだから当然火がつくだろう、と思っている人は全国に少なくないと思う。
それほどに漢字の視覚的イメージ喚起力は強い。
しかしこれ、例の京アニ放火殺人事件以来の「携行ガソリン購入厳格化」の成果があった、と見るべきだろうか。
単に犯人が「手っ取り早く(考えることにも至らずに)」事を済ませた、というだけだろうか。
4 自首先がコンビニ店員
電車から逃走後、「自転車を盗んで逃げたが疲れた」としてコンビニ店に「自分がやった」と自首。
自転車も盗む、という点は、いかにもネット民に「クズの駄目押し」と見られそうなところだ。
しかしコンビニ店員も、こんなこと言い出されても迷惑である。
ただでさえ多岐にわたり多忙だと有名なコンビニ労働者だが、こんなことまで言いに来られてはたまったものではない。
5 自殺未遂
本人は凶器の牛刀(刃渡り20センチ)を、2年前に自殺しようとしたとき購入したらしい。
しかし自殺は痛そうだから止めた、とのこと。
自分の自殺は痛いから止めたが、大量殺人はしようとする――これでまたクズの上塗りである。
しかし、もし自殺のために牛刀を購入したのが本当だとすれば、珍しい人でもある。
牛刀で自殺する・しようとする人って、そんなにいますか?
以上、なんだか今回の犯人、庶民だろうにも関わらず、まるで貴族化して実生活から遊離した人間のようにも見える。
サラダ油に火が付くと思っているとか、ここまでやって一人も殺せないとか、そうかと思うと自首先にコンビニを選ぶとか……
少なくとも、「それくらいの実生活しかしていない」ような印象を受けてしまう。
さて、問題の犯行動機、すなわち女性一般への復讐心と憎悪だが――
近年、女性への憎悪・敵対感情が男性間に広まっていることで名高いのは、お隣の韓国である。
「こんなんだから大学のサークルで女性に見下されるんだよ」と嘲弄するのは簡単だが、実は女性一般への憎悪・敵対感情って、日本の男性間でもけっこう広がっているのではあるまいか。
それこそネットでよく見るが、「共感」の輪が広がっているのではあるまいか。
日本で起きることは(犯罪もまた)、常にアメリカの後追いをするという。
しかし現代に至っては、ついに韓国の後追いをするようになったということなのかもしれない。
これは誰でも予言できることだが、女性一般への憎悪・敵対感情に基づく殺人は、第1号が出てしまった以上、これからも陸続と起こるだろう。
そういう感情を持っている男性は、何万人単位でいるはずだからである。
13歳で金メダリストになった女の子と我が身を引き比べて、はなはだしい絶望に突き落とされる男性は、日本中に何万人もいるはずだからである。
さらにこれ、そういう犯罪を決意する男性自身にとっても実は「都合がいい」。
なぜなら女性への復讐こそが動機なら、常に世の中から指弾・批判されるところの「結局、弱い女性しか選んで狙ってない」という「見下し」をキャンセルすることができるからだ。
しかしそれでも一向に変わりないと思われるのは、「勝ち組の女性」「幸せそうな女性」を狙うと言いながら、
結局はキラキラした女性アイドルやインフルエンサーたちではなく、そこらのフツーの女性を狙うことになるのだろう、という点である……