12月中旬、小売り大手のイオンは、グループ会社も含め「接客時のマスク着用を、原則として禁止する」方針を伝えた。
特に傘下の靴小売チェーン「ジーフット」では、接客担当社員だけでなく、取引先と打ち合わせする事務職にも禁止が及んだと伝えられている。
これだけ聞けば、「ま~た日本企業ではびこる抑圧主義か、クレーム過敏症か」などと反射的に感じてしまいそうである。
私も通常ならそんな感じ方をするのだろうが、しかしこの件についてはやや感じ方が違う。
なぜなら昔から、思っていたのだ――
日本には、マスクしている人が異様に多いのではないか、と。
テレビのニュースなんかでよく街頭の光景が映されるが、日本のそれには必ず(と言っても間違いないほど)マスク着用者が複数人映る。
しかし気のせいか、外国の街頭の光景にはマスク着用者はほとんど見ることがないのである。
そしてあなたも、気づいているのではないか。
この日本には、そんなに年がら年中風邪を引いているわけがないはずなのに、年がら年中マスクをしている人がかなりいる、ということに。
私にはそんな感覚はまるでないので、推測だけでものを言うが――
おそらく年がら年中マスクを着けている人というのは、(もしそれが醜貌コンプレックスによるものでないのなら)マスクを着けることで「安心」するのだろう。
たぶんあれは、「他人の視線から表情を守る」防具みたいな役割を果たしている、と思われる。
サングラスは自分の目を隠すが、マスクはその逆に目以外の部分を(顔の下半分を)そっくり隠す、というわけだ。
そしてサングラス着用で仕事するのは、百パーセントの人が無礼だと感じるだろう。
だったらマスク着用で仕事するのが無礼だと思われるのも、確かにこれは一理あると言わねばなるまい。
もう一つ、マスク着用は確かに仕事の邪魔である。
私もマスクを着けて仕事したことが、生まれてこの方ほんの数回はあるのだが(そもそも私はあまり風邪を引かない)……
しかし電話や面と向かって人と話をするときは、マスクが邪魔で邪魔でたまらなく感じるので、やっぱり外していたものである。
こんな風に感じるのは私だけではないと思うが、あなたはどうだろうか。
さらにもう一つ、風邪など病気の感染を防ぐために仕事中でもマスク着用をすべきだというのなら、いったい外国の労働者はどうしているのだろう。
もしそれが本当に効果があるなら、WHO(世界保健機関)あたりが途上国向けに大々的に広報し配布しているのではなかろうか。
日本でも、そういうコマーシャルが頻繁に流れているのではあるまいか。
アフリカの街頭を映した光景には、マスクを着用した黒人がたくさんいるはずではないか?
たぶんあなたが日本人であれば、「欧米のレストランでウェイターやウェイトレスがマスクをしている」なんて光景には、かなり違和感を抱くはずである。
いや、ちょっと想像しがたいはずである。
そしておそらく、それが日本における日本人のウェイターやウェイトレスであっても、やはり違和感はあるだろう。
どうも世界の中でも日本人には、際立って「マスク好き」の気があるように思われる。
さらに言えば、「マスク依存症」の人の割合が際立って高いのかもしれない。
もしマスク好きの人たちが、本当に感染予防に効果があると思ってマスクしているとすれば、それはかの名高い日本人の「ケガレ意識」が一役買っているのではないかと思う。
すなわち、「クシャミする姿を人に見せる」こと自体がケガレたことなので、そう見られたくないからマスクを着ける――
あるいは、クシャミの飛沫が(そもそも唾液だし、しかもそれにはバイ菌が入っていて)ケガレているから、それをぶちまける非常識人(ケガレ人、とでも言おうか)と見られたくないからマスクを着ける、
という成り行きである。
(しかし、「クシャミでケガレる=バイ菌をばらまく」というのがもし明々白々の常識だとするなら、なぜ日本以外の世界ではマスク着用が呼びかけられていないのか説明は難しい。)
もしかすると日本におけるマスクとは、先に述べたような「表情の防具」としての使われ方がむしろ主流なのかもしれない。
パーソナルスペースの防御と言おうか、それは「他人とあまり関わりたくない/見られたくない」という意思の表明なのかもしれない。
もしそうだとすれば、接客業の人――取引先と打ち合わせる人であっても――が、マスクを着用するのは「なんだコイツ」と思われても仕方ないだろう。
別に私自身は、マスクするのが無礼だと感じるわけではないが……
世に数多くいるだろう「マスク依存症」の人たちが、風邪を予防したくてマスクを着けている人の足を引っ張っているのではないか、との感想は、やはり拭えないものがある。