プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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吹田市警官襲撃・拳銃強奪犯もまた「ハズレくじ」or「人間地雷」

 6月16日の朝、吹田市の交番にいた若手警察官を襲撃し重体に至らしめたうえ拳銃を強奪した33歳の男は、翌17日に早くも逮捕された。

 なんでも彼、「私のやったことではありません」「これは病気がひどくなったせい、周りの人がひどくなったせいだ」として容疑を否認しているらしい。

 そして実際、精神疾患を患っていたことがあるようだ。

 確かに交番襲撃前にはウソの空き巣110番通報で警官をおびき出すなど、計画的なところも見られるが――

 しかしたとえ狂人であろうとも、これくらいの策略は考えつくし実行できることはあり得る。

 「嘘をつける狂人」というのは、確かにいるものである。(ありふれている、と言うべきか)


 なお、彼の父親は関西テレビの現役の常務であるとのこと。

 そもそも彼の身元が早期に特定できたのも、その父親が公開された防犯カメラ映像を見て「息子に似ている」と自ら警察に申し出たからである。

 さらに言うと彼は最近、学校時代の同級生たちを(同窓会を開くという名目で?)集めようともしていたらしい。

 その同級生の方々にとって、これは恐怖以外のなにものでもない。

 
 もう、こうした事件を聞くたびに感じるのは――

 つくづく、今を生きる人間の最大にして最も身近な懸念事項は、「ハズレくじを引くこと」だということである。


 関西テレビ常務の父親は、ハズレくじの子どもを引いた。

 彼の同級生は、ハズレくじの同級生を持った。

 彼を(精神障害者として?)雇用してくれたアルバイト先は、ハズレくじの人間を引いた。

 そして何より彼自身が、ハズレくじの自分を引いた。

 
 今、社会の世相の至るところに「ハズレくじ」が散らばっている。

 就職活動も採用活動も、

 近所づきあいも労働の場も、

 人生のパートナー選びや子どもを持つことも、

 およそ人間の経験する事柄の全ての軸が、全ての願いが、「ハズレくじを引かないこと」に凝縮されていると言って過言ではない。


 プロレス好きの人なら、かつてテリー・ゴディというレスラーが「人間魚雷」と称されていたことを知っているだろう。

 それに倣って言えば、現代人の最大かつ最も身近な恐れは、「人間地雷」と関わりを持ってしまうことである。

 日々のニュースを普通に見ているなら、ほとんどの事件ニュースはこの「人間地雷」が発生源だと思わないわけにはいかない。

  
 であるから、世間の人が

「やっぱり精神疾患はアブナイ」

精神障害者なんて絶対に雇わない」

 なんて思うのに、何の不思議があるだろう。

 それはむしろ、人として現代人として当然の感じ方だろう。

 
 であるから、企業が採用時に「そういう気配のある人を精神的スクリーニングする」とか、

 恋人をマッチングする際に「相手の遺伝子証明を求める」とか、

 チビ・ハゲ・デブ・ブサイクは「生まれてくる子どもが可哀想だから(つまり、ハズレくじを引かせたくないから)」初めからパートナー候補から除外するとか、

 そんなことをするのを妨げるものは(人間のホンネ的には)何もない。


 「ハズレくじを引かないこと」――

 これがこれからの人間の最大の課題であって、これを中心にしてこそ社会は動く。

 それは人権派にとって恐るべきディストピアとなるには違いないが、しかし押しとどめようもない時代の流れである。

 結局のところ、それこそが人類の最後の願いであり、克服すべき課題となるだろうから……

 そして人権派すら、「自分だけは」ハズレくじに当たりたくないと願うし、実際にそう行動するだろうからである。