プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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国有地9割引売却問題と「安倍晋三記念小学校」その4

 森友学園は、次の三つの教育施設を運営している。(ウィキペディアによる)


①学校法人塚本幼稚園幼児教育学園(大阪市淀川区塚本1丁目)

社会福祉法人肇國舎高等森友学園保育園(大阪市淀川区塚本4丁目)

③学校法人瑞穂の國記念小學院(大阪府豊中市野田町、予定)


 このうち③が、いま問題になっている土地上に今年4月に開校される予定のものだ。

(3月下旬のギリギリになって学校設立の認可が下りる見通しらしい。)

 これら学校・幼稚園・保育園については、「園児に軍歌を歌わせる」とか「教育勅語を暗唱させる」とか、突き抜けた教育方針でつとに有名である。

 なるほどこういうことは、世間一般の基準で言えば「異様」で「アブナい」教育方針には違いない。

 しかしでは、キリスト教系の幼稚園でキリスト教の賛美歌を歌わせるのはどうなのか、聖書の一節を朗読するのはどうなのか、という話にもなる。

 園児を何かの思想・宗教に染めようとする点で、どっちもどっちと言うものではないだろうか?

 “瑞穂の國記念小學院”は「日本初の神道系の小学校」になるらしいが、やはり森友学園の教育施設とは――

 日本に数多くある「キリスト教系」「仏教系」の学校・幼稚園・保育園と同列の、神道教・天皇教・日本教の教育施設なのである。

 そう解釈すれば、軍歌合唱も教育勅語暗唱も「それはそういうことをするだろう」と納得できよう。

 あとはただ、そういう教育施設に我が子を通わせたいと思う親がどれだけいるかという話になる。

 その数が少なければ経営は成り立たない(閉校になる)だろうし、そうでなければ存続・発展するという市場の自由競争である。

(ただし私は、「幼い頃からキリスト教で育てられたのでキリスト教徒です」なんてのは、インチキ信者だと思っている。

 宗教も思想も、自分の意志と判断で選び取るとか作り出すとかいうのがホンモノだと思っている。

 「幼稚園から天皇陛下万歳と教えられたので大人になっても天皇陛下万歳です」などというのは、全然感動を催さない“臣民”ぶりである。

 あなたは「へいへい、そんなの当たり前じゃないですか」と思わないだろうか?)

 

 さて、「日本精神」「日本人のこころ」をとにかく大切にする学校があってもよい。その存廃は親たちの自由選択・市場選好に委ねられるべきものである。

 しかしこの森友学園には、一つどうしてもはなはだ「非日本的」な側面があると思わずにいられない。

 それは、“瑞穂の國記念小學院”は当初、“安倍晋三記念小学校”と名付けられる予定で寄付集めをしていた、という点である。

 それが現役の総理大臣の名であるということは、さておくとしても――

 人名を、しかもフルネームを学校の名前に冠するなど、日本人の感性から著しくかけ離れたものだとあなたは感じないだろうか?

 それはむしろ極めて欧米的であり、それこそ「日本人なら考えもしない」ことに類するのではないか?


 これが欧米なら、学校名だの施設名だのに人名を付けるのは、確かにありふれたことである。

 アメリカにはブリガム・ヤング大学があり、(モルモン教の指導者ブリガム・ヤングに由来)

 ドイツにはマックス・プランク研究所がある。(物理学者マックス・プランクに由来)

 特にこういう傾向が著しいのはアメリカで、ジョン・F・ケネディ国際空港もあれば、空母その他の軍艦に歴代大統領名や各種人名を付けるのも普通のことになっている。

 なおウィキペディアからコピペすると、「大統領名」の米空母には次のようなものがある。

ドワイト・D・アイゼンハワー (USS Dwight D. Eisenhower, CVN-69) 1977年10月18日就役

セオドア・ルーズベルト (USS Theodore Roosevelt,CVN-71) 1986年10月25日就役

エイブラハム・リンカーン (USS Abraham Lincoln, CVN-72) 1989年11月11日就役

ジョージ・ワシントン (USS George Washington, CVN-73) 1992年7月4日就役

ハリー・S・トルーマン (USS Harry S. Truman, CVN-75) 1998年7月25日就役

ロナルド・レーガン (USS Ronald Reagan, CVN-76) 2003年7月12日就役

ジョージ・H・W・ブッシュ (USS George H. W. Bush, CVN-77) 2009年1月10日就役

ジェラルド・R・フォード(USS Gerald R. Ford, CVN-78) 2016年就役予定

ジョン・F・ケネディ (USS John F. Kennedy, CVN-79) 建造中

 (蛇足だが、どうもはなはだしく評判の悪い大統領――リンドン・ジョンソンなどは、たぶん命名されることはないのだろう。

  将来「空母ドナルド・トランプ」が就役するのかどうか、ちょっと興味のあるところだ。)


 しかし、我が国・日本ではどうだろう。

 自衛隊護衛艦に「吉田茂」とか「楠木正成」とか、人名を付けようとすることなどあるだろうか。

 「信長」「信玄」など戦国武将の名を軍艦に使うのは、架空戦史にはあった気がする――しかし現実世界ではもちろん別だ。

 きっと将来にわたり、護衛艦に人名が付けられることはないだろう。それは「日本人のこころ・感性・常識」に著しく反するからだ。

 福沢諭吉は「福沢諭吉大学」ではなく「慶應義塾(大学)」を創立した。

 大隈重信は「大隈重信大学」ではなく「早稲田大学」を創立した。

 なるほど「北里大学」というのはある(細菌学者・北里柴三郎に由来する)が、それだって名字だけだ。

 あの創価学会でさえ「池田大作記念大学」ではなく「創価大学」を設立し、

 幸福の科学は「大川隆法記念大学」でも「エル・カンターレ大学」でもなく「幸福の科学大学」を設立申請した。(認可は下りなかったが)

 その中で「安倍晋三記念小学校」を設立しようというのは、こう言っては何だが、本当に“日本人のこころ”を持っているのか疑いたくなるような感性である。 

 (この意味で、新小学校名が“瑞穂の國記念小學院”になったのは、誰にとってもマシなことであった。)


 なお、これは有名な話だが、瑞穂の國記念小學院の名誉校長に就任する安倍首相夫人・昭恵氏は――

 かつて塚本幼稚園を訪問した際、籠池園長から「安倍首相ってどんな人?」と問いかけられた園児らが「日本を守ってくれる人」と答えたのに感激し、涙を浮かべたそうである。

www.sankei.com


 しかし私なら、もし自分や自分の身内が年端もいかない子どもにこんなこと言われたら、全身が気色悪くなってしまいそうだ。

 そしてまた私は、たとえ小さな子どもといえど、これほどの茶坊主ぶりには我慢ならないタイプである。

(自分の息子ならひっぱたいていたかもしれない。)


 私は、「幼い子どもにこんなことを言われたら感動する/感動しなければならない/感動するのが人の道」などという雰囲気を、心からバカにするものである。

 どうせこの子、ちょっと違う教育方針で育てられれば「日本は中国に悪いことしました」と純心に言うに決まっているのである。

 それなのにいちいち感動してしまうとか、「人前では感動して見せなければならない」とかいうのは果てしなく虚しいことと、みなさん思わないだろうか?


 なお案の定と言うべきか、近過去に森友学園について好意的な記事を書いた産経新聞は、本件国有地問題についてほとんど報道記事をネットにアップしていない。(もちろん同紙は、安倍首相にも好意的である。)

 本件が産経にとって不倶戴天の敵である朝日新聞のスクープであることを考えても、これはいささかエゲツない態度に思える――

 が、そもそも「完全に公平な報道機関」などこの世にあるはずがなく、報道機関は営利企業であり個人個人と同列なのであって、むろんそれぞれの主張や思想や方針を有していて当然だ。

(だからこそ全ての新聞が「社説」というものを載せている。)

 しかし本当に産経新聞しか読まない読者(というものがいるとして……)にとっては、本件はこの世に存在しないも同然である。

 このことを考えると、新聞社にとっては嘆かわしい「新聞は取らない。ニュースはもっぱらネットで見る」という傾向は、実に健全で当たり前の“環境への適応”であると思わざるを得ない。