3月15日、ニュージーランドはクライストチャーチにあるイスラムモスク2箇所で、白人4人の銃によるテロ攻撃があり49人が死亡した。
「人類みなユーチューバー時代」の産物と言うべきか、犯人らは銃乱射による殺害光景をSNSで生中継していたという。
(⇒ 時事ドットコム 2019年3月15日記事:NZのモスクで銃乱射、49人死亡=容疑者4人逮捕-首相「テロ攻撃」と非難)
誰でもそう感じているだろうが、ここ数年、この手の大量殺人テロはイスラムサイドの独壇場であった。
こういうことをやるのはイスラム国はじめイスラム過激派の専売特許のようなものだと、みんな思っていたはずである。
そして一部の人は、いぶかしくも思っていたかもしれない。
なんだか(まだまだたくさんいるに違いない)白人至上主義のホワイト右翼、最近やけにおとなしいではないか、と……
そういう暗黙の世間の雰囲気に焦りを感じたのかは知らないが、とうとうその小集団が花火を打ち上げた格好だ。
ところで欧米で言う「右翼」とは、一言で言えば民族主義者、もう少し具体的に言えばナチスのシンパでありファン集団のようなものである。
案の定というか当然というか、今回の事件を起こした人たちも、例によってナチスのシンボルであるカギ十字を用いた紋章を使っている。
ナチスがユダヤ人を大量に迫害・虐殺したことを知らぬ者はないが――
しかしナチスの対アラブ・対イスラム政策及び態度というのは、なかなか複雑で一筋縄では解読できないところがある。
もちろんアーリア人種と対等に扱おうなどと思っていたわけではないはずだが、一応のところ、虐殺しよう追放しようなどとはしていなかったようだ。
だがそんなこと、現代の白人至上主義者の反イスラム派には些細なことである。
とにかく彼らはどうにもこうにもナチスにシンパシーを感じずにいられないので、自分の思想に趣味に嗜好にナチスの方をコンバートするのは、はなはだ容易い脳内作業でしかない。
さて、今回の事件の意味を(事の善悪や人名をあえて全く度外視して)考えてみると――
これはやっぱり、ホワイト右翼やその潜在的賛同者にとっては記念碑的な快挙になる、というべきだろう。
要するに冒頭で述べたように、テロ攻撃はイスラム勢力だけの専売特許ではない、ということを強くアピールしたことになるからだ。
もちろんアルカイダやイスラム国のテロが大企業のやるテロだったとすれば、今回のテロは零細企業・家内制手工業のようなテロである。
同時に2箇所のモスクが襲われたと言うから、犯人4人が二手に分かれてやったのかはよくわからないが……
どうも彼らの勢力はその4人だけで、バックにシステマティックな右翼組織が控えているというわけではないような気がする。
言ってみればこれ、いかにもアメリカあたりの連邦制度を否定する右翼らしい、「個人的草の根テロ」の匂いがする。
(しかし今回の犯人らは、「自分らの思想は中国政府に近い」とかマニフェストに書いているそうだ。
中国政府もとんだ迷惑である。)
そしてこの事件をキッカケに、イスラム移民の多い西欧諸国では、確かに白人による個人的草の根テロが頻発しそうな予感もする。
何と言っても政治家や有名人に対する(組織のバックのない一個人による)個人的テロとは、西欧世界に脈々と続く伝統の一環なのだ。
イスラム勢力の組織的テロと、西欧白人の個人的テロの対決と応酬――すなわち、テロ文化戦争であり人種戦争。
もしかしたらこれこそが、いつか起こる起こるとずっと言われてきた「第三次世界大戦」の正体だろうか。