警視庁新宿署の組織犯罪対策課に属する23歳の女性警官が、30代のヤクザ(暴力団員)と交際し捜査情報を漏らしたとして懲戒及び書類送検された。
しかしなぜだか「懲戒免職」ではなく「依願退職」だそうである。
こういう事件が世間の注目とネットアクセスを集めるのは当然だろう。
女警官とヤクザが恋愛――これは人の好奇心を刺激し、いかにも小説や映画で描かれそうな設定ではないか。
なんだか、1960年代から80年代の任侠系アクション映画には、こんな血湧き肉躍るような設定がよくあったような気がする。
しかしこういうこと、創作の世界ばかりではなくもちろん現実にもあるのである。
さて、こういう事件を聞いて思うのは――
「ちゃんとした女・高貴な女が無頼漢やアウトローに惚れる」というストーリーが、いかに広く人間界に浸透しているかということである。
女検事や女弁護士やお姫様が、ろくでもない犯罪者や準犯罪者・犯罪者予備軍の男と恋に落ちてしまう――
というのは、日本のみならず世界中にはびこる「黄金パターン」である。
そういうのは映画にも小説にもマンガにも、どこのメディアにも腐るほど出てくる。
そして現実の日常生活においても、
「女は(なぜか)不良に惚れる。真面目な男には惚れない」
という “法則” があるのも、あなたはきっと聞いたことがあるはずだ。
もちろん現実のさらに現実には、必ずしも女は不良男に惚れるものでもないだろう。
ヤクザやアウトローと恋愛するなんて真っ平御免という女性の方がむしろ圧倒的多数だろう。
それでも「女は真面目な男でなくワルの方が好き」というのは、もう一種の定説になっている。
それを裏書きするかのように、創作世界ではなぜだか「まともな女性がアウトローに惚れる」という設定が本当によく使われるのだ。
これはもう、神話学の世界における「ペルセウス型神話」のようなものである。
「お堅い/高貴な女がワルと恋に落ちる」のは、世界中に分布する “現代の神話” と言える。
やろうと思えばいくらでも採録できそうなので、文化人類学や神話学を専攻する学生さんには、ぜひこのパターンをまとめて卒論研究してほしいものだ。
(そしてこの逆、すなわち「まともな男がチンピラ女に惚れる」というのは、あるにはあるだろうが数は少ない。
ただし「まともで品行方正な男が売春婦に惚れる」パターンは例外である。
日本にはあまりないかもしれないが、欧米には多そうではないか……)
それにしても組織犯罪対策課の女性警官が、まさにその対策課が捜査対象とする暴力団員と恋愛する、しかも捜査情報を漏らすなんてことが実際にあるのだから――
「女はなぜか不良の方が好き」という “神話” は、まんざら作り話でもない証拠なのだろう。
そして「神話というのは一から十まで作りごとなんてことはなく、必ず事実/真実の核がある」というのもまた、やはり真実なのだろう……