プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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超新星・藤井聡太の旭日昇天と「神武以来の天才」加藤一二三の引退-天才のくっきり過ぎる世代交代

 先日の記事で大間違いを書いてしまった。
 「将棋」と書くところ「囲碁」と打ち込んでしまったのだが、何でこんな間違いをしたのかわからない。
 書き直しましたので、載せておきます。どうもすみませんでした。

 ところで藤井聡太四段(14歳)、6月21日に澤田真吾六段(25歳)に勝利し、ついに歴代最多連勝記録タイの28連勝を達成した。
 先日記事のマスコミによる「贔屓の引き倒し」はともかくとして、彼が将棋の天才であることは間違いないようだ。
 ただ別にケチを付けるわけではないが――そしてこれは、どうにもいわく言いがたい印象なのだが――、
 将棋や囲碁やチェスといった盤上ゲームというものは、いかにも「天才」がどんどん現れてきやすいジャンルだと思う。
 言い換えると、確かに人間のやることの中で最も早くAIに追い抜かされそうなジャンルに感じる。
 おそらくAIにとっては、従業員300人くらいの会社の社内政治を勝ち抜くことの方が、はるかに難しい課題なのだろう。

 それはともかく、21日のすぐ前日の20日、加藤一二三(ひふみ)九段(77歳)が最後の対局に敗れて現役引退となった。
 
 この詳しい経緯については、次の記事を読んでいただくとして――

 瞠目すべきは、その通算成績である。
●対局数2,505(歴代最多)
●1,324勝(歴代2位)
●1,180敗(歴代最多)

 なんと14歳7ヶ月で史上初の中学生棋士となり、63年間も現役で活動し、「神武以来の天才」と称された男は、史上最も負けた男であった。
 いやもう、将棋のことも加藤一二三氏のことも何一つ知らなくても、この「歴代最多の敗北数」という記録を見ただけでこの人を好きになってしまいそうである。
 「史上最高レベルの将棋の天才は、最も負けを重ねた男であった」――この事実にある種の感動・感慨を覚えない人は、ほとんどいないのではなかろうか。 
 
 それにしても「神武以来の天才」とか「負けたら即引退」とか、何とも極めてプロレスを思わせる話である。
 そして現役最高齢の天才が敗れて引退した翌日、彼の史上最年少デビュー記録を塗り替えた14歳の天才が、旭日昇天の勢いで歴代最多連勝記録に並ぶ――
 これほどはっきりした世代交代は、プロレス界にもほとんど類例がない。
 オカダ・カズチカ棚橋弘至を破って初めてIWGPヘビー級王者になった“レインメーカー・ショック”にしても、だからといって棚橋が引退したわけではなかった。
(「負けたら即引退」の故・橋本真也にしても、ほどなく復帰した。)

 加藤九段は最後の対局でも負けを悟ると早々にタクシーを呼んで即帰りする準備をし、マスコミへのコメントも「感想戦」も行わず(これは異例だそうだ)タクシーで帰途に就いたとのこと。
 最後の最後まで勝ちを狙ったのに敗北した悔しさが、真正面から伝わってくる行動ではないか。
 最後はすがすがしく涙を湛えて「今までありがとうございました」とコメントするのも美しいが――
 これはこれですがすがしいのとはまた別の、勝負師としての最後にふさわしい幕切れである。
(何となく、天龍源一郎引退試合を思い出してしまった。)

 加藤九段、長い間お疲れ様でした。