プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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将棋・藤井四段の語彙力は「すごい」のか-マスコミはアイドル製造業である

 将棋の世界で、まだ14歳の藤井聡太四段が無類の快進撃を続けているというので話題になっている。
 私は将棋に何の関心もないのだが、もちろんネットニュースにたびたび記事が上がっているので名前だけは知っている。
 そして今回は、こんな記事がヤフートップニュースに上がっていた。
 藤井四段が、その年齢にしてはスゴイ語彙力を持っていて注目が集まっているというのである。

 記事を読んでみると、そのスゴイ語彙力というのは「醍醐味(だいごみ)」「望外(ぼうがい)」「僥倖(ぎょうこう)」という言葉を使ったからだということがわかる。

 ……いや、これ、そんなにスゴイか?……
 おそらくこの記事を読む十四歳の中学生のかなりの人数は、「いや、オレも(アタシも)知ってるし」と思ったと思う。
 特に「醍醐味」なんてのは、そうとうバカなレベルの中学生でも日常生活で使っていても不思議ではない普遍的な言葉である。(漢字で書けるかどうかは別として……)
 「望外」という言葉にしても、キリッと口調を改めて「いやあ、望外の喜びです」なんて冗談で言うことはあるのではないだろうか?

 私がこの記事をクリックして感じたのは、「ああ、また“持ち上げ”が始まったか」ということである。
 もっと悪い言い方をすれば、「タイコモチ(太鼓持ち)」や「へつらい」・「おべっか」・「はやし立て」が始まったということである。
 マスコミは報道業とされているが、しかし報道だけやっているのではない。
 マスコミは(ネットニュースも含め)ヒーロー・ヒロイン・アイドルの大手製造業者であり、時としてそれが本業ではないかとさえ思わせる。
 しかしそれも、意地悪い見方をすべきでないかもしれない。
 何と言ってもそれは重要なメシのタネなのだから、作るなと言うのも生存権ないし企業活動の否定ということになってしまうのかもしれない。
 それにしてもこの記事、最後は
「藤井四段が通う名古屋大教育学部付属中学校(名古屋市千種区)で担任を務める数学担当の大羽徹教諭(39)は「僥倖は、自分もどういう言葉なのだろうかと思って調べた」と笑う。」
 と締められているのだが――
 大羽先生、あなたは数学とはいえ学校の先生でしょう、そんなこと知らないで良かったんですか、と感じたのは私だけではないはずだ。
(しかし、こんなこと知らなくても教員試験に受かるというのは、教員志望者にとっては心強い情報である。)

 マスゴミとも称されるマスコミは、水に落ちた犬をボコボコに叩く習性で悪名が高い。
 特に政治・行政に対しては、何もなくても普段から「叩くスタンス」にある。
 しかし一方、誰かアイドル候補が出てきたら、手ぐすね引いてホメ上げる用意ができていることも見逃せない。
 近くはあの眞子さまと婚約した小室圭さんだが――

 あの人のマスコミ対応は、ただ「時期が参りましたら、あらためてお話しさせていただきます」とか、「今の時点では、お話しするのを控えさせていただきたいと思います」とかいう言葉を繰り返していただけである。
 これはせいぜい“慎重な応答に終始した”と書くべきだと思うが、こんなのでもマスコミの手にかかると“責任感を感じさせる、立派な態度”に変換されてしまうのだ。
 またあなたは、あの小保方晴子(33歳)がSTAP細胞を発見したという一報直後数日間の、彼女をトキメキヒロイン扱いする報道を憶えていないだろうか。
 
 「思春期女子の十八歳は、箸が転んでも大笑いする年頃」と言われる。
 そして多くの分野では、ヒーロー・ヒロイン・アイドルの芽が出た人間は、たちまちその一挙手一投足がマスコミに賞賛されることになる。
 それこそ「醍醐味」という言葉を口にしただけで「スゴイ」と報道されるようになる。
(今のネットニュースでやたら毎日、有名人の行動・発言について“絶賛の嵐”“共感の嵐”などという記事タイトルが出てくるのも、この一環である。
 とにかくマスコミは、製造業者として注目と売り上げを集めなければならないのだ。)

 もしこれが「昔の若殿様」に対する周囲の態度だったとしたら、それを是とする人間は全然いまい。
 それは間違いなくバカ殿を作る態度、おべっか使いの佞臣(ねいしん)のやることだと、誰もが感じるからである。
 しかし、だったら、現代の十四歳に対しても同じように感じるべきではないか?

 正直私は、この記事を書いた朝日新聞記者も、“これくらいでこんなに褒めるのは「贔屓の引き倒し」じゃないか”と思っているように思う。
 もしかしたら担任の大羽先生も、僥倖くらい知っているけど“空気を読んで”知らなかったと答えたのではないかと思う。
 そうだとすると、「宮仕え(食うために仕事する)」も「空気を読む」ことも、始末に負えないくらいアホらしく感じられる。