今年のプロ野球は、セリーグは阪神、パリーグはオリックスの優勝で終わった。
どちらも関西を地盤とするチームである。
そこで11月23日には大阪と神戸で優勝パレードが行われるのだが、その交通整理などに府職員・市職員が投入されることになっている。
ところがこれが、神戸市では休日勤務扱い(とは言っても時間外勤務手当が出るのではなく、平日を振替休日にする形のはずだ)なのにも関わらず――
大阪府と大阪市では「純然たる有志のボランティア」という扱いで、当然ながら時間外手当も振替休日も弁当支給もないということについて、大きな批判が寄せられている。
(⇒ MBSニュース 2023年11月14日記事:優勝パレード「人数は次の通り」職員らに連絡…しかし『ボランティアで無給』異論の声)
ここではこの大阪府と大阪市の方針を、「ボランティア勤務」と呼んでおこう。
もちろんこれは、純然たるボランティアなどではない。
「動員の割り当て」のあるボランティアって、どう考えても「勤務」である。
しかしこのボランティア勤務という悪習(と、私ははっきり思う)は、日本全国津々浦々に普及した「慣例」でもあるのではないか。
だがたとえそうであっても、やはり近年はボランティア扱いから勤務扱いにする流れが主流ではあるまいか。
なるほど、それらのイベントに従事するスタッフは、市町村職員・都道府県職員だけではなく、本物の一般人だっているだろう。
もし本物の一般人ボランティアスタッフに報酬・賃金が支払われないとすれば、公務員スタッフに手当や振替休日が与えられるのは不公平――
だから後者もまた純然たるボランティア扱いする、というのもあり得るかもしれない。
が、しかし、やはり純然一般人ボランティアと公務員ボランティアは違うのである。
こういうとき公務員ボランティアが「押し付けられ責任者」みたいな扱いをされるに違いないこと、誰よりも一般人ボランティアからそういう扱いをされるに決まってることは、特に想像力がなくても誰でもわかる。
公務員だから、市職員だから、当然に「アンタがリーダーでしょ、この場の一番エラい人でしょ、責任者でしょ」となって何だかんだと聞いてこられるというのを想像できない人って、本当にいるのだろうか。
いや、それ以前に「純然たる参加意思」からではなく「動員の割り当て」がある時点で、もう問題なく100%これは勤務に違いないのだ。
しかしこれには、さらに「それ以前」の問題がある。
それは言うまでもなく、なぜ「私企業であるプロスポーツチーム(すなわち興行団体)の優勝パレードに、公務員がスタッフとして動員・派遣されるのか」という問題である。
これはまさに、大問題ではあるまいか。
例えば新日本プロレスのリーグ戦優勝パレード(これはかつて本当に行われた)に地元の市職員がスタッフとして動員・派遣されるとしたら、どうか。
特定の私企業の営利活動・PR活動に、公務員が支援のためにスタッフとして派遣される。
これはこの世の中でも、「やっちゃいけないこと」の代表例みたいなものだ。
そしておそらくこれが、大阪府と大阪市が「あくまでこれはボランティア」と言い張ることの主な理由の一つだと思う。
その意味では、むしろ神戸市の方が完全アウトと言っていいだろう。
地元プロ興行野球チームの優勝パレードに市職員・県職員が「仕事として」スタッフ参加していいなら、地元スーパーのリニューアルオープンセールに「仕事として」売り子参加したっていいことになるだろう。
しかし圧倒的多数の人は、そんなことしちゃいけないだろうと思うに違いない。
ところが難しいのは、これが常に「しちゃいけないに決まってる」とはならないところである。
たとえば山梨市でディズニー特別パレードが開かれるとして、その交通整理スタッフに山梨市職員が(仕事であれボランティアであれ)参加しない――となれば、今度は多くの人が「それはおかしいんじゃないか」と思いそうである。
そんなオオゴトに地元の公務員が「民間企業のやることだから」参加しないなどと聞けば、けしからんと思う人の方が多いのではないか。
これを解決するには、その民間企業主催パレードに市町村や都道府県が「協力する」と公式に表明すればよい。
そうすれば晴れて堂々と、職員を仕事として――動員の割り当てをして――スタッフ参加させることができる。
むろん言うまでもなく、これはボランティアでは全然ない。
だから大阪府と大阪市の今回の方針は、完全に間違いだというのである。
だがそれでもまだ、いったいどんな基準で「民間企業のやるイベント」に職員を派遣するのかしないのか、その境目は定かではない。
野球とかサッカー・バスケットボールなど、いわゆるメジャースポーツであればOKとなるのだろうか。
しかし私企業がやるのである以上、スタッフ派遣は民間警備会社に頼むのが常道ではないか。
それを公務員に(自分は腹を痛めずに)やらせようとするのは、やっぱりどう考えてもおかしくないか。
たとえば民間企業が市に対し「これこれをやるから協力してほしい」と申し入れたとして、その協力というのが市職員の無料スタッフ派遣のことを意味するのであれば、どう対応すべきか。
だから今回の話題は、神戸市がまともで大阪府と大阪市がおかしい、とかいう単純な区分けでは済まない。
公共機関は「民間による賑わい創出」にどう協力するのか、協力とはいったい何を意味するのか、どこまでの協力が許されるのか、という難しい問題なのである。