プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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尼崎市USB紛失:ベンダー・ロックインは「解決不能問題」か?

 尼崎市のIT業務の再々委託先社員が、市民全員の情報が入ったUSBを紛失した問題で――

 元委託業者たるビプロジー社(旧日本ユニシス)が、30年以上前に市の住民情報を管理するシステムを開発して以来、ずっとその関連業務を受託していることが報道された。

 この「ただ1社による継続的IT業務の受注・囲い込み」を、「ベンダー・ロックイン」と呼ぶそうだ。

(⇒ 読売新聞 2022年7月3日記事:USBメモリー紛失業者、30年以上の「ベンダー・ロックイン」)

 そして折も折の今年2月、公正取引委員会はこのベンダー・ロックインに関する初の実態調査結果を公表している。

 国・自治体など1800機関を対象にして約1000機関から回答があったらしいが(この回答率の低さは何だろう)――

 その回答者の98.9%が、情報システムの改修・更新時に既存の業者と再契約したとのこと。

 これについて大学教授は、「自治体職員への研修を強化し、IT人材を育成するべきだ」と指摘したらしい。


 こういう事件が起こると、必ずどこかの大学教授のコメントが報道記事の末尾に掲載されるものだが――

 いつものごとく判を押したごとく、決まってそのコメントというのが「言うは易し」「空理空論」「こんなことならオレだって言える」の典型例だと思うのは私だけではないだろう。


 この記事を読んでいるあなたはたぶん、どこかの会社・団体に勤めている。

 ではその会社の情報システムを導入・改修・更新するとき、あなたは仕様書が書けるだろうか。

 研修したからって、そんなことができるだろうか。

 大変失礼ながら、あなたにはそんなこと逆立ちしたってできないと思う。

 そしてあなたができなければ、ほぼ100%の国家公務員・地方公務員にもできはしないのである。

 よって、この大学教授の指摘は、次のように改められなければならない。

自治体職員として、情報システムの仕様書が書ける人材を採用しなければならない」と。

 しかし誰もが思うように、これもまた空理空論である。

 そんな人材はきっと、標準的な公務員の給与では来てくれはしないからである。 
 
 もちろん、「標準的でない高額の給与」を用意すれば来てくれるかもしれない。

 それは年収1000万円台か、2000万円台なのかもしれない。

 だが、そんなことをしている自治体の話を全く聞かない以上、そうはできない何らかの事情があるに違いない。


 また、仮にそんな人材を全ての自治体・国の機関が獲得できたとして――

 じゃあ「1業者べったり」を防ぐため、本当に数年ごとに入札をして業者を入れ替える(入れ替わる可能性を作る)なんてことを、いったい実現できるのだろうか?

 言うまでもなくそれは、情報システムを総入れ替えするということである。

 あなたはそれが、本当に現実的だと思うだろうか。

 社内会議で、そんなことを本当に提案するだろうか。

 そもそもこのことを報じている読売新聞社自体が、社内の各種システムを数年ごとに入札にかけているのか極めて疑問ではないか。

 それこそ日本中のほとんど全ての会社が、「システム導入時のベンダーとずっと随意契約している」のではないか?

 
 私はこのベンダー・ロックインの問題は、「解決不可能問題」の一つではないかと思う。

 もし解決策があるとするなら、それは海外事例の収集に求められるのではないかと思う。

 だがおそらく――私はこのことについて何の知識もないのだが――、海外諸国でも似たようなものではないかと濃厚に思う。

 そもそも日本全国の会社のパソコンのOSがほぼ全てWindowsなのも「OSロックイン」と呼ばれるべき状況だと思うが……
 
 それは全然問題にされていないのは、やはり現時点では「解決不能」で「解決を考える方が無駄」だからではないだろうか。