超有名外食チェーン「餃子の王将」の社長がその本社前で射殺されるという2013年12月の事件は、近年では日本屈指の未解決事件であった。
しかし10月28日、警察はその容疑者を逮捕した。
容疑者の男(56歳)は北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」――の2次団体「石田組」幹部で、大林組の(人が中に乗っている)乗用車に発砲した事件で既に逮捕され、福岡刑務所に服役中であった。
さて、私もだが皆さんも、このニュースを聞いてビックリしたことがあるだろう。
それは、容疑者逮捕の決め手が「現場に落ちていたタバコの吸い殻」であったことだ。
その吸い殻に付いていた唾液のDNAが、今回の容疑者と一致したのだという。
(⇒ NHK 2022年10月28日記事:「餃子の王将」社長射殺事件 別事件で服役中の暴力団幹部逮捕)
(⇒ 毎日新聞 2022年10月28日記事:たばこ付着のDNA型、容疑者と一致 普段愛用の銘柄 王将社長射殺)
私はこの事件を軽く見たり茶化したりするつもりは毛頭ないが、しかし思わずにいられない。
よりにもよってタバコの吸い殻が決め手になって犯人がわかるなんて、なんてズッコケでズンドコな話なのだろうか、と。
「タバコの吸い殻が重大な手掛かりになって犯人に辿り着く」
などというのは、20世紀初頭の探偵小説でさえバカにされるプロットだった。
現代はもちろんのこと当時でさえ、そんな推理小説を書けば作者は二度と業界に復帰できないほど読者に軽蔑されただろう。
(もっともその前に、出版社に見切りを付けられるが……)
しかしそれが、21世紀も20年代にもなって、こんな重大事件で現実のものとなったのだ。
「事実は小説より奇なり」とは言うが、「事実はくだらない小説よりさらにくだらない」ともまた言える、と思うのはこういうときである。
しかしまあ、もし私がこの容疑者に殺人を依頼した人間なら、こんな現実を知ったら激怒しそうである。
なんでまたこんな重大任務をやるのに、タバコの吸い殻なんて危険な証拠を現場に残すか。
非喫煙者はよく喫煙者を(ネット上では)ヤニカスなどと罵るが、今回の件に限ってはそういわれても仕方ないだろう。
確かに容疑者は、餃子の王将社長が外に出てくるのを現場で待っていたそうである。
ただずっと立っているだけでは不自然だからタバコを吸っておく、というのはわかる。
しかしそのタバコの吸い殻を、なぜ携帯灰皿に入れて持ち帰らないか。
タバコの吸い殻に唾液が付いて、それがDNA鑑定に使われるかもしれないくらいの知識は、2013年の犯罪者――しかも銃撃経験を持つ「プロ」――なら持っていて当然ではないか。
もしかしてこの容疑者、「携帯灰皿を使う」なんてことは裏社会のアウトロー暴力団員としてふさわしくない、やりたくないなんていう、妙なプライドがあったのではないかと疑われてくる。
つまり、この事件の教訓はこうである――
もしあなたがヒットマンに殺しを依頼するなら、そのヒットマンには非喫煙者を選ぶべきである。
どうしても喫煙者しかいないなら、絶対に現場に吸殻を捨てるなと、子どもに言うように言って聞かせるべきである。
そうでないと今回のような、19世紀の探偵小説でも書いたらバカにされるような事態が、現実に起こってしまうのである……