10月29日夜10時頃というハロウィン前夜、ソウルの梨泰院(イテウォン)が仮装した若者らで大混雑した末に連鎖転倒し、今のところ153人の死亡(圧死)が確認されている。
そのほとんどが10代・20代の若者で、うち2人は日本人女性である(10代1人、20代1人)。
折りしも韓国産ドラマ『梨泰院クラス』が大ヒットしており、日本でもその翻案の『六本木クラス』が作製・放映された。
今回の惨劇で初めて「梨泰院」を「イテウォン」と読むのだと認識した日本人も、たぶん少なくないだろう。
さて、こういう「群衆密集大量圧死」事故というのは、たいていがインドネシアとか中東の宗教行事とかで起こるものだというイメージを日本人は持っているだろう。
しかし日本でも明石市の花火大会歩道橋事故(2001年)で11人が死亡したように、決していわゆる先進国では起こらないわけではない。
とはいえ、どうもヨーロッパの方でこんな事故が起こったという話はあまり聞かない。
その意味でこの種の事故は、「アジア的事故」と言ってもいいのかもしれない。
それにしても思うのは、「ハロウィン」という風習が日本のみならず韓国でも完全に定着・隆盛しているということについてである。
いったいなぜ21世紀になってハロウィン風習がここまで極東アジアを席巻することになったのか、後世の民俗学者などにとってはさぞ興味深い論題になるだろう。
さて、それはともかく、私はこういう事故は「イベント災害」と呼んだ方がいいと思う。
観光客が来すぎて地元民が大迷惑を蒙ることを「観光公害」と言うが――
それと同じく、主に先進国においてビッグイベントが行われ、人が密集して転倒崩壊して死者が出る、これを「イベント災害」と言っていいのではないかと思うのだ。
見方によっては、コロナ禍による「密」の禁止や忌避は、こういうイベント災害の発生を防いでいた。
もしかするとコロナのなかったifの世界では、日本でもこんな惨劇が起きていたかもしれないのだ。
しかし現実世界においてコロナ禍が終わった途端――韓国ではもう終わったとみなされているのだろう、たぶん――、この有様である。
「密」の回避は、コロナ禍が終わってもイベント災害防止のために続けた方がいいんじゃないかとさえ思えるではないか。
私は元来、人が大勢集まる所へ自分も行くのが大嫌いである。
(その流れで、行列に並ぶのも大嫌いである。)
だからこういうニュースを聞くと、(不謹慎になるのかどうかわからないが)そういう人間で良かったと思わずにはいられない。
しかし世の中の多くの人は、特に若い人たちは、人が集まる所へ行きたがる心性を持っているのだろう。
だから今後も――コロナが終わって「密」解禁になれば――、イベント災害で死者が出るケースはもっと増えると思われる。
そして今回の梨泰院の惨劇での死者153人というのは、今年の韓国の自然災害死者数を全部合わせたより多いのではなかろうか。
これぞまさしく真の人災と言うべき、イベント災害……
失われる人命の数からいえば、地震や火山噴火よりこっちへの対策の方がもっと重要――なのかもしれない――