プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

社会、ニュース、歴史、その他について日々思うことを書いていきます。【プロレス・格闘技編】はリンクからどうぞ。

むつ市悲鳴「ストッキング工場閉鎖で雇用500人喪失」は日本の未来

 1月20日、ストッキングなどの下着メーカー「アツギ」は、国内生産子会社「アツギ東北」の生産業務を今年5月末で終え、青森県むつ市盛岡市の2工場を閉鎖することを発表した。

 このうちむつ市の工場は500人を雇用し、「下北地域では最大の雇用の場」だという。

 閉鎖する原因は、新型コロナの影響で在宅勤務・外出自粛が広まり、ストッキング需要が減ったことだという。

 なお、今後の生産拠点は中国の工場に集約するとのこと。

 もっともむつ工場では2020年の夏以降から希望退職を募集しており、既に約270人が離職している。

 しかし、むつ市としては工場閉鎖までは想定しておらず、市の担当者は

「人口5万の自治体で500人もが職を失えば、市だけで対応できるレベルではない。

 どう対処してよいかわからない」

 と悲鳴を上げているらしい。


 さて、皆さん、これをどう思われるだろうか。

 私が全くの部外者として咄嗟に思ったのは、

「これは20年前に既に起こっていてもおかしくなかった」

 ということである。

 国内の工場、それもストッキングを製造する「繊維工場」というのは、もう何十年も前から中国に移転し続けていた印象がある。

 実際、日本の庶民が着る衣料(それどころか日用品も)の結構な部分が「中国製」になってから久しい。

 2022年の今、まだこれほどの規模のストッキング工場が日本にある、ということの方がむしろ(全くの門外漢には)意外なことではなかろうか。

 

 その意味では、むつ市はこの工場の消滅を想定しておくべきであった。

 だが、想定しないのもわかるのである。

 そんなこと想定して対策を立てましょうと意見を述べ、各界を巻き込もうとしても、どうせ

「まだ起こってもないのに、何を無用な(それどころか有害な)騒ぎを起こすのか」

 と白眼視されるのがオチなのだ。

 「江戸幕府はペリーが来航するのを事前に知っていたが、対策は取らなかった」

 という有名な話も、その原因はここに起因するだろう。

 そしてこういう話は、人間が人間である限り未来にもずっと続くだろう。


 さて、未来にもずっと続くと言えば――

 この「地域の雇用の核である大規模工場が閉鎖される」

 ということ自体も、これからの日本で長期間にわたり頻発する出来事のはずである。

 最近の例では、日本製鉄の広島県呉市戦艦大和を建造した街である)の大規模製鉄工場も、2023年9月末までに閉鎖されることが発表されている。

 もう今の日本が製造業立国ではないことは、そろそろ世間の常識になっている。

 また日本の急速な人口減少が確実になっている(常識になっている)今、製造工場というもの自体が斜陽産業になっているのであって、それならば日本各地の製造工場が次々と閉鎖されていくのは確実な未来だと言っていいだろう。

 それはつまり、相当程度の工場を誘致して人口と雇用を増やそうという「戦略」が、どうしようもなく時代遅れで的外れなものとなることを意味する。

 もちろん一部の例外はあるにしても、今から「工業団地」を造成しようというのは、危険極まる大バクチの一種と考えておいた方がよい。

 そして、今現在「地域の雇用の核となる工場」が立地し、それに「頼っている」全国の各地域は――

 言うまでもなく、その工場がなくなったときのことを考えておくべきである。

 しかし、そんな誰でもわかるようなことであっても、実行される可能性はごくごく少ない。

 「まだ起こってもないこと」に加え「そんな縁起でもないこと」を考えて他人の心証を悪くしようなどと、誰もしたくないからである。

 これ、遺産争いを防ぐには事前に遺言を(相続人を交えて)書いておいた方がいいに決まっているのに、大部分の人間はそんなことしないで死んでいくことに、非常に似ている。

 しかしそれが人間、特に日本人なのであってみれば――

 これからも「工場閉鎖で地域は悲鳴」みたいな記事は、次々量産されていくことと思われる。