「筑豊地域」と言えば、日本人なら知らない人が少ないくらいの「ヤクザのメッカ」とされている。
本当は神戸市や大阪市の方がそれに当てはまるはずなのだが、しかし「筑豊地域」という言葉の響きには、どこか独特の“輝き”がある。
おそらく日本人の多くは、筑豊地域と聞けば「炭鉱」と「ヤクザ」という2つの言葉が瞬時に思い浮かぶだろう。
このうち炭鉱の方は大昔に廃れたが、ヤクザの方はいまだ現在進行形である。
その筑豊地域の真っただ中に位置する福岡県大任町(おおとうまち)について、またも(と言うべきか)ヤクザのイメージが燦然と輝く報道が行われた。
なんと大任町は、公共工事の入札結果を(もちろん法律に違反して)非公表としているというのだ。
しかも町長は、その違法行為を「これからも町民の命を守るために続ける」と明言している。
いったいなぜなのかと言えば、入札結果が公表されると、その落札業者のところに「ヤクザが(千円相当の)素麺を1万円で売りに来る、だから業者から公表してくれるなと要望があった」からだというのである。
(⇒ RKB毎日放送 2022年12月5日記事:“違法”でも変わらない「福岡県大任町」入札非公表だけじゃなかった4つのヤバイ状況)
いやあ、奇想天外というか、ほとんど誰も想像だにできない理由である。
こんな理由はとても捏造できそうもないので、きっと真実なのだろう。
それにしても、「ヤクザが素麺を売りに来る」である。
なんだか牧歌的な田舎のほのぼの話のようにさえ聞こえてしまうが、しかしむろん、これは冗談話などではない。
落札業者にしてみれば、本当に恐怖と迷惑を感じることなのだろうと思う。
ただ不思議なのは、別に入札結果を非公表にしたからって、どの業者がその工事を受注したかを秘密にしておけるわけがない、ということである。
工事が始まれば、嫌でもわかることなのである。
ヤクザが素麺を売りに来る事態は、こんな「対策」だけでいったい防げているのだろうか。
また、大任町の近隣市町村では、いったいどうしているのだろうか。
それら市町村では当然入札結果は公表しているのだが、そこでもヤクザは素麺を1万円で売りに来ているのだろうか。
なお、私も初めて知ったのだが、大任町では「町議会を傍聴禁止・録画禁止」にしているそうだ。
また、今年3月まで、6年半にわたり議会での一般質問はゼロだったらしい。
なんだかまるで、1920年代の(独裁市長グループに牛耳られた)アメリカのハードボイルド的な街、異次元の街のように感じるのは私だけではないだろう。
そういえば日本のほぼ全ての市町村で「議会だより」みたいな広報紙が作られているはずだが、大任町の場合はどんな紙面なのだろうか……
私はこのニュースを聞いて、思うことはいろいろあるが――
その中の一つだけ言うとするなら、もし私がこの町の若者であれば、決然としてこの町を出て行くだろうということである。
およそまともな若者で、こんな町に留まろうという気になるのは、それこそヤクザの子弟だけではないかと思ってしまう。
そしてまた、もう一つだけ言うと――
ヤクザになってやることが「千円の素麺を1万円で売りつけること」だという事実を、当のその販売ヤクザはどう思っているのだろう、ということである。
なんだかこれは、サラリーマンヤクザというかセールスマンヤクザではないか。
ヤクザになって何をするかと言えば、刃物の出入りや銃での撃ち合いではなく、素麺の売り付けなのだ。
私がそのヤクザだったら、いったい俺は何をやっているのかと自問して僧にでもなるか、逆上して親分や先輩ヤクザをぶち殺してやりたくなると思うのである。
ヤクザもヤクザが幅を利かせる街も、若者が出て行って年寄りしか残らなくなるというのは、至極当然の話ではあるまいか。